[対談・座談会]

2024年7月号 357号

(2024/06/11)

[座談会] 進化する企業統治~ 資本効率の改善に向けた取り組みの前進と投資家からの取締役の受入れ

【出席者】
玉井 裕子(長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士)(司会)
古田 温子(デロイトトーマツエクイティアドバイザリー合同会社 代表執行役社長)
十倉 彬宏(長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士)
水越 恭平(長島・大野・常松法律事務所 パートナー 弁護士)
  • A,B,EXコース
左から水越恭平氏、玉井裕子氏、古田温子氏、十倉彬宏氏

左から水越恭平氏、玉井裕子氏、古田温子氏、十倉彬宏氏

<目次>
  1. 1.はじめに
  2. 2.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた企業の取り組み
    • (1)近時の東京証券取引所の制度改革について
    • (2)市場区分見直し・東証要請の本質
    • (3)株価を意識した経営のための取り組み
      • ①  事業ポートフォリオの見直し
      • ②  スピンオフ
      • ③  株価を意識した経営と「株主還元」
      • ④  株価を意識した経営と「開示」
  3. 3. 取締役会の役割・あり方と投資家からの取締役の受入れ
    • (1) 取締役会が果たすべき役割・現状の問題点
    • (2) 投資家からの取締役の受入れ
      • ①  投資家からの受入れ事例(含、株主提案)
      • ②  戦略委員会/戦略検討委員会
  4. 4. おわりに

1.はじめに

玉井 「本日は『進化する企業統治~ 資本効率の改善に向けた取り組みの前進と投資家からの取締役の受入れ』というテーマで議論を進めようと思います。私は司会を務めさせていただきます弁護士の玉井裕子です。よろしくお願いいたします。

 パネリストを紹介させていただきます。まず、デロイトトーマツエクイティアドバイザリー合同会社代表執行役社長で、上場会社の敵対的買収防衛、プロキシーファイト、アクティビスト対応のほか、中期経営計画策定、経営幹部育成等の支援業務をご専門とされ、実践的な場で豊富なご経験を有する古田温子さんです。それから長島・大野・常松法律事務所の同僚パートナーで、コーポレート・M&A、アクティビスト対応などを主に手がけている弁護士の十倉彬宏さん、同じく同僚パートナーで、キャピタルマーケット案件、特に上場会社の資金調達や国内外での企業情報開示を主に扱っている弁護士の水越恭平さんです。本日はお集まりいただきましてありがとうございます。よろしくお願いいたします」

2.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた企業の取り組み

(1)近時の東京証券取引所の制度改革について

玉井 「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた企業の取り組みについて議論するにあたり、まずここ数年の東京証券取引所における制度改革、企業統治改革に向けた動きを概観しようと思います。大きくは2022年4月の市場区分の見直し、その1年後の2023年4月の『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』の要請(東証要請)の2つがありますが、その概要について、東証への出向経験もあり、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の策定にも関わった経験のある水越さんから説明してもらいましょう。まずは市場区分の見直しについてお願いします」

水越 「2022年4月に行われた市場区分の見直しによって、東証市場はプライム、スタンダード、グロースの3つの新しい市場区分に再編されました。見直しに至る問題意識として、それまでの市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資家にとって利便性が低いという意見がありました。例えば、東京証券取引所と大阪証券取引所の現物市場が2013年に統合されたことにより市場第二部、マザーズ、JASDAQの3つの市場の位置付けがあいまいとなり、また、市場第一部についてもそのコンセプトが不明確だという見方がありました。

 また、新規上場時の基準よりも上場廃止基準のほうが大幅に低く、上場後に新規上場時の水準を維持する必要がないため、上場会社の持続的な企業価値向上に向けた動機付けが十分にできていないという点や、他の市場区分から市場第一部に移行する際の基準が新規上場時に直接移行するときよりも緩和されているという点から、上場後の積極的な企業価値向上を促す仕組みにはなっていないという問題点が指摘されていました。こうした反省を踏まえて、市場のコンセプトを明確にする形で、3つの市場に再編されました。

 まず、多くの機関投資家の投資対象となり得る規模の時価総額を持ち、高いガバナンス水準を備えるとともに、投資者との建設的な対話を中心に据え、中長期的な企業価値向上にコミットする企業、典型的には幅広い海外投資家を有する日本を代表するグローバル企業を対象にしたプライム市場が設けられました。そして、一定の時価総額を持ち、上場会社として基本的なガバナンス水準を備えた企業向けの市場としてスタンダード市場が、また、高い成長性を有し、相対的にリスクが高い企業に向けたグロース市場といった形で再編されました(図表1)。

(図表1)新市場区分のコンセプト
プライム市場多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
スタンダード市場公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
グロース市場高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場

(JPXウェブサイト
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/01.html

 この再編の特徴は、上場後に積極的な企業価値向上を促す仕組みを導入したところです。具体的には、上場を維持するための基準(上場維持基準)を引き上げて時価総額向上への意識付けを行うという点、また、実効的なガバナンスを備えるべく、プライム市場であれば流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%以上、スタンダード市場であれば流通株式比率25%以上という基準を設けた点があります(図表2)」

(図表2)上場維持基準(流通株式関係)
 流通株式比率流通株式時価総額1日平均売買代金
プライム市場35%以上100億円以上0.2億円
スタンダード市場25%以上10億円以上
グロース市場25%以上5億円以上

(JPXウェブサイトを元に編集部作成
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/01.html

玉井 「各市場間の区分の意義・基準を明確化することもさることながら、時価総額や企業価値の向上をより強く促すという狙いをもって行われた改革と言えそうです。その観点からは、国内外の機関投資家を念頭に置いた、より洗練された資本市場におけるプレーヤー(発行体)としてのプライム上場会社という考え方があると思いますが、プライム市場に関する追加的規律としてはどういうものがあるのでしょうか」

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