[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2019年12月号 302号

(2019/11/15)

第176回 ロボットSIer業界 ファクトリーオートメーション普及の陰の立役者と新展開

生井 寛尚(レコフ アドバイザリーグループ)
  • A,B,EXコース
はじめに

 あらゆる業界において人材不足が叫ばれる昨今、産業用ロボットの利活用が急務となっている。政府は2014年に「ロボットによる新たな産業革命」というスローガンを掲げ、ロボットの産業界への適応を推進している。そこで重要な役割を担うのがロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)である。2018年には複数事業者が一体となり、業界を盛り上げようと協会も発足した。また、大手企業がロボットSIer会社を買収するなどの動きもあり、徐々に活況化の様相を呈している。

 一方、同ビジネスへの世間的な認知度が低いことなどを要因に、ロボットSIer業界自体も人手不足や利益率の低さなどの課題を抱える。

 本稿では、産業界におけるオートメーション化への取り組みの進展に伴い、今後ますますその役割への期待が高まるであろう、ロボットSIer業界の特徴を概観し、M&Aの活用可能性について検討する。


日本政府によるロボットの利活用の推進

 産業用ロボットの需要は世界中で高まっている。国際ロボット連盟が2018年に発表した統計によれば、世界での産業用ロボットの販売台数は、2013年から2017年までの5年間で2倍に増加。以降も年平均(CAGR)14%で成長すると推計している。

 日本でも政府や国が旗振り役を担い、企業の産業用ロボットの利活用を促進しようとしている。労働人口が減少する中、製造現場における自動化・省力化のニーズがいままで以上に高まっていることに加え、ものづくりにおいての海外企業との競争力を高めるなどの目的がある。

 日本政府が2014年に公表した「日本再興戦略」では、「ロボットによる新たな産業革命」をうたい、2015年には「ロボット新戦略」として具体的なビジョンや戦略、アクションプランを取りまとめ、“ 我が国は世界一のロボット利活用社会を目指す ”という目標を掲げた。また、2019年7月には「ロボットによる社会変革推進会議」が、ロボット新戦略の更なる推進に向け報告書を公表した。報告書では、日本が産業用ロボットの年間出荷台数で世界最大のシェアとするものの、市場の成長性等を踏まえ、他国の伸長を警戒。また、従業員1万人あたりの導入台数(産業用ロボットの導入密度)に関する調査で、韓国、シンガポール、ドイツに次ぐ4位であることから、国内企業、特に中小企業への導入を強化すべきと指摘している。

 これまで産業用ロボットの導入は、コスト面でのハードルの高さなどから大企業を中心とした投資余力のある企業を中心に検討されてきた。それが近年においてはコストの低下や小型化などが進んだことで、中小企業でも産業用ロボットを導入できる環境が整ってきており、一層の普及も期待されている。


ロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer)とは

 産業用ロボットメーカーは、ロボットアーム等に代表されるような単体製品を売ることが主であり、産業用ロボットを購入してすぐにユーザーの目的に沿った作業を行えるわけではない。一方、ユーザーはロボットの設置や制御、調整等の技術に関する知識やスキルが十分でない場合がある。このメーカーとユーザーとのギャップを埋め、ユーザーの目的にかなったロボットの運用を実現するのがロボットSIerの役割である。

 ロボット技術は、「動く(駆動系)」、「感じる(センサ系)」、「考える(知能系)」の3要素に分けることができ、ロボットSIerはこれらの要素を統合し、ユーザーの課題解決のため、設計、開発、運用・保守を請け負う。経済産業省等によるホームページにおいては、「ロボットに命を吹き込む仕事」として紹介している。

 その存在の重要性が以前より認識はされていたものの、業界の全体像は把握されていなかった。企業間のネットワークの構築や業界の認知度向上に向け、2018年7月には「FA・ロボットシステムインテグレータ協会」が発足。現在150社以上が会員企業となっている。


業界が抱える課題

 自動化・省力化へのニーズの高まりを受け、業界全体で引き合い、売上が増加傾向にある。他方で、業界が抱える課題も浮き彫りになっている。

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