M&A専門誌マール

2017年10月号 276号 : M&A戦略と法務

敵対的株主提案と議案の両立性判断-取締役選任議案を題材に 有料記事です

 小川 周哉(TMI総合法律事務所 弁護士)

1 はじめに

  6月29日の集中日が過ぎ、本年も3月決算企業の定時株主総会が一段落を迎えた。本年は、6月総会においては計40社に対し計212件と過去最高の株主提案が行われたとされる中(注1)、近年のガバナンス重視・改革の流れに沿い一部の機関投資家が個別の議決権行使結果を開示するなど新たな時代を感じさせる動きが見られたほか、一定の(これまでは)「安定的」な運用がされていた定時株主総会においても会社提案に係る議案への反対票が増加するなど、我が国の株主総会を取り巻く環境は大きな変化の時期を迎えているように思われる。

  典型的な(つまり友好的な)M&Aでは、株式譲渡や会社法上の組織再編など、双方の合意の下に行われる具体的な取引行為によって、売り手側から買い手側に対象会社の経営権が移転する。これに対し、現経営陣に対する批判などを掲げ、株主が、自ら推薦する候補者を当該企業の役員に選任することを提案し、株主総会において選任させることを通じ、直接又は間接に対象会社の経営権を確保し又はこれに影響を及ぼそうとする取組みが行われることがある。このような取組みは純粋な「取引」としてのM&Aではない一方で、それが対象となる企業の経営陣の多数派を確保することを目的とするものである場合などには、正に経営権の取得に向けた行動と同義となる。

  このように広い意味でのM&Aにも用いられる手段となる株主提案は、一定の株主に認められた会社法上の権利でありながらその取扱い等について会社法や施行規則に詳細な規定が置かれておらず、その運用は実務に委ねられている部分も多い。筆者は所属法律事務所において比較的多くの株主提案事案に主として会社側で関与してきたものであるが、特に、敵対的な議案-会社側の議案と対立する関係に立つ議案について、その処理方法、決議の取り方など、実際上の取扱いについて迷いを生じることが少なくない。そこで今回は、敵対的な株主提案のうち、会社側の議案と競合する提案株主側の議案の処理方法等について、取締役選任議案を題材に整理することを試みたい。なお、以下では、対象会社は取締役会設置会社かつ議決権行使書面による書面投票を実施している会社であることを前提とし、会社側が取締役会決議に基づき株主総会に付議する議案を「会社提案」又は「会社提案議案」と表記する。

2 株主提案権とは

  会社法上、株主総会の目的事項(いわゆる「議題」)は、原則として当該株主総会を招集する者、すなわち通常であれば取締役会が決定する。これに対し、(定款に別段の定めがない限り)総株主の議決権の1%以上の議決権又は300個以上の議決権を(公開会社にあっては6ヶ月以上)保有する株主は、取締役に対し、株主総会の会日の8週間前までに、一定の事項を株主総会の目的とすること(つまり議題とすること)、又は株主総会の目的事項である議題について具体的な議案を提出することができることとされており、これを一般に「株主提案権」と呼ぶ(注2)。なお、実務上「株主提案権」と表現される場合には、(i)議題の提案権(「取締役3名選任の件」)、(ii)議案の提案権(「候補者X、Y、Z氏を取締役に選任する件」)、そして(iii)議案の通知請求権(株主総会招集通知等により、提案に係る議案の要領を株主に通知するよう請求する権利)の3つの権利を包含するものとして、これらの区別を特に意識せずに用いられることも多い。もちろん、抽象的に議題だけを提案するのでは提案株主の意思を実現することができない場合が多いため、(ii)議案提案権が(場合によって(i)議題提案権と共に)行使されることとなり、また、上場会社の案件の場合にはほぼ必ず、非上場会社の案件の場合も比較的多くの場合において(iii)議案の通知請求権も行使されることから、「株主提案権」の行使の場面では、厳密には少なくとも(ii)及び(iii)の両権利が行使されていることとなる。

3 株主提案議案の評価が必要な理由

  以上のような法定の手続要件を満たす株主提案があったとして、その実際上の取扱いはどのように決せられるべきであろうか。その株主提案に係る議案が他の会社議案と全く無関係なものである場合には比較的シンプルである。例えば、会社提案が取締役選任議案のみである株主総会に対し、それとは無関係な剰余金の配当に関する議題・議案が提出されたような場合は、会社提案議案と株主提案議題・議案は競合する関係になく、純粋に株主提案議案に関する取扱いを検討することで足りることが多いであろう。

  これに対し、提案議案が会社議案と競合する議案である場合には、特に検討すべき事項が生じる。

  すなわち、例えば、ある株主総会においてAという会社提案議案と競合するBという株主提案議案が付議されることとなった場合、AとBの関係性等によっては、議案の立て方や採決方法などに影響が生じ得るのである。競合するAとBの関係としては、例えば、(i)AとBが論理的に両立し得ない議案である場合、(ii)AとBは論理的には両立し得るものの、提案株主の提案の趣旨・意図からしてA又はBの二者択一の判断を株主に求めていると解される場合(以下「代替的株主提案」という)、(iii)AとBは論理的に両立し得るもので、提案株主はAに加えてBを可決するかの判断を株主に求めていると解される場合(以下「追加的株主提案」という)、(iv)AとBは論理的に両立し得るもので、提案株主は特にAとは無関係にBの可否判断を株主に求めている場合、などがあり得ると考えられる。提案を受けた会社側としては、いずれの場合においても、会社提案議案と株主提案議案がいずれもその趣旨を損なうことのないよう、また、議決権行使をする株主の意思が適切かつ一貫した形で反映されるように、両議案を処理しなければならない。

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