[M&A戦略と法務]

2018年3月号 281号

(2018/02/15)

救済型M&Aにおける手法の選択

 葉玉 匡美(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース

1 救済型M&Aとは何か

  企業が経営不振に陥り、このままでは破たんやむなしという状況に陥っている場合であっても、様々なステイクホルダーが事業継続を望むことが多い。労働者が雇用維持を望むのは当然のこと、大幅な赤字事業(Bad事業)が収益性・将来性の高い事業(Good事業)の足を引っ張っている場合や、競争力の乏しい事業(Bad事業)と取引先にとって代替困難な部品供給を行っている等競争力の高い事業(Good事業)が混在している場合等には、企業や取引先は、Good事業だけでも存続させることを志向するのが普通であろう。
  もっとも、経営不振に陥った企業が自力で経営再建を行うことは、たとえ民事再生手続等を利用しても、資金面・信用面・人材面等において困難であり、スポンサーが資金等を投入してGood事業を承継することも多い。
  このようなスポンサーによる事業承継は「救済型M&A」と呼ばれており、オーナー型中小企業を対象とする場合もあれば、大企業が経営戦略上切り離しを決定した不振のノンコア事業や子会社を対象とする場合もある。
 もちろん、スポンサーは救済自体を目的としているわけではなく、通常よりも安価に事業を取得することができる等のメリットとリスクを天秤にかけ、メリットが大きいからこそ、資金等を投入しているのであり、その点で通常のM&Aとの違いはない。
  スポンサーが求めるメリットの代表的なものは、(1)商圏(取引先・店舗網・ブランド・許認可等)、(2)生産能力(生産設備・人材・生産技術等)、(3)知的財産権関連(特許・商標・著作権等やその開発者)等である。
  他方、リスクの代表的なものは、一般的な事業リスクのほか、M&Aや法的整理等を原因とする(1)商圏の喪失(取引先や店舗賃貸人等との契約解除、許認可の喪失)、(2)生産能力の低下(人材流出や生産技術の喪失)、(3)知的財産の価値低下(陳腐化、開発中断、技術者の流出等)、(4)簿外債務・偶発債務(不法行為債務等)の引き受け、(5)粉飾決算、会社資産の不正流用、偽装等のコンプライアンス違反の発覚等である。

2 法的整理手続による救済型M&A

  M&Aのスキームを検討する場合には、(1)スポンサーが求めるメリットが確実に得られること、(2)リスクをスポンサーがコントロールできる範囲に限定することという2つの視点から最適の解を導く必要がある。特に救済型M&Aにおいては、経営不振の企業から事業を引き継ぐため、スポンサーはリスクコントロールを重視することが多い。
  例えば、製造物責任やリコール費用の償還等偶発債務が過大になるリスクが高い場合には、スポンサーが出資する前提として、民事再生手続ないし会社更生手続という法的整理手続を利用して偶発債務のリスクを限定するのが最適な場合もある。
  会社更生手続は、更生計画において担保権者(金融機関等)の権利をカットすることができる点で強力であるが、経営陣の交替が必須であり、費用と時間(通常数年)がかかる。そのため、最近は大企業でも、主たる債権者の理解を得られる見込みが大きいときは、民事再生手続により迅速(事前にスポンサーと支援内容を決定したプレパッケージ型であれば最短で約半年)に会社再建を図ることがある。
  民事再生手続は、原則として経営陣の交替はなく、株主の地位にも変化を与えないが、再建型M&Aを伴う場合には(1)既存株主の株主権を0にして(100%減資)スポンサーが再生会社に出資して100%子会社にする又は(2)再生会社がスポンサーに対してGood事業を譲渡する方法がとられる。
  (1)は原則として

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