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[M&A戦略と法務]

2018年5月号 283号

(2018/04/16)

企業買収の判断における役員としての留意点

 山宮 慎一郎(TMI総合法律事務所 弁護士)

1 はじめに

  あなたが役員を務める会社に、日頃から懇意にしているフィナンシャル・アドバイザー(FA)から、とある企業買収をしないかとの話しが持ち込まれた。この買収話自体は、日頃から関心を持っていたことでもあり、また業界を見渡すと、将来の成長を見越してか、異業種からの新規参入や、同業どうしの提携の話がそこかしこから聞こえてくる。そこで、この企業買収話を検討の俎上に載せていこうということになった。さて実際に企業買収を進めるに当たって、業務執行を担う経営陣の一人として、はたまた社外取締役ないしは監査役として、あなたはどのような点に気を付けて、この検討を進めていったらよいのか。M&Aの話は、突然持ち出され、かつ秘密裏に進められるうえ、タイミングも重要であるため、慎重にとはいえ、迅速な判断を求められることも多い。第一義的には、役員としての経営判断が尊重されるとは聞いているものの、結果が全ての会社経営で、成功すれば文句はないが、ひとたび損失を出して連結業績や株価にも影響するようなことになれば、株主の目も厳しくなり、株主総会で経営陣の責任を追及するような発言が出されたり、場合によっては株主代表訴訟までしてくる株主もいたりする。このように、とかく企業買収に当たっては、買収企業の将来の発展を予想しながら、果敢にリスクを取る判断が求められることになるが、このときに役員としてどのような点に留意すべきなのか、私自身、上場企業の役員として身を置く立場、また上場企業の役員から専門家として相談を受ける立場から、日日直面させられる問題でもあり、そのときに思うところを交えながら考察してみたい。

2 企業買収の判断における取締役の裁量権―経営判断原則

  日頃から経営トップとして事業の陣頭指揮に当たっている経営者にとっては釈迦に説法のことではあるが、会社経営は、ある程度予測を立てて行っていくものの、その通りの結果に至るとは限らない。企業を買収するのでもされるのでも、買収に先立ち買収対象会社における事業計画見通しを立てて、これを前提に企業価値を算定して、買収条件が定まっていくことになるのであろうが、事業計画と異なる結果になった場合、業績が上ブレすれば、さらに業容を拡大させて新たな事業の柱に成長させたり、高い利回りで売却したりすることもできる一方、業績が下ブレすれば、監査法人からのれんの減損を求められるし、他の事業部門・子会社との統合再編を進めたり、あるいは損切りしても売却したりして収益改善を進めることを余儀なくされる。このように事業経営はプロでさえ予想が立てにくいリスクを必然的に伴うため、結果責任だけを問われてしまうと、経営者は思い切った舵取りができなくなってしまう。そのため、経営者には広い裁量権が認められており、その判断の過程と内容に著しい不合理性がない限りは、受任者としての善管注意義務に違反することはないとされる(いわゆる経営判断原則)。とはいえ、判断の過程と内容が著しく不合理であれば、事後に経営が失敗に終わったときには、株主はじめ会社から単なる非難に留まらず、法的責任、具体的には損害賠償責任を問われるおそれがあるので、最低限留意しておくべき事項がある。ここで考慮すべき事項については、事案毎に状況は違えども、積み重ねられた裁判例のなかで、裁判所や当事者が取り上げてきた事項が参考になる。取締役の責任追及訴訟の裁判例の判断基準についての俯瞰については、既に数多のM&A判例の解説書があるのでそちらに譲ることとし、以下では、会社役員として、企業買収事案に賛同するか否かの判断を求められた際に、留意しておくべき事項、行動の指針となるべき事項を、ご紹介したい。

3 企業買収の判断に当たって考慮すべき事項

(1) 具体的な法令の遵守


  取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守してその職務を行う義務を負う(会社法355条)。企業買収の場面に限らず、取締役として、法令・定款及び社内の内部規程に基づいてその職務を遂行しなければならないことは言うまでもない。何よりも具体的な法令の遵守については、前述した経営判断原則に基づく取締役の裁量権は認められないことに注意を要する。企業買収の過程においては、上場会社であれば金商法上のTOB規制やインサイダー取引規制に抵触しないよう気を付けるべきである。TOB規制は極めてテクニカルな内容なので、証券会社を通じて専門的な知識を有するプロの相談を継続的に受ける必要があるし、買収交渉段階・公表前後からマスコミが経営者に対して取材攻勢を掛けてくるので、不用意な情報提供で市場に影響を与えることのないよう慎重な対応が求められる。独占禁止法における企業結合審査(待機期間の遵守や問題解消措置の実行)やガン・ジャンピング規制(待機期間中の情報交換による企業結合の事実上の実行の防止)等にも配慮を要するし、株式譲渡や組織再編に伴う会社法上の手続規定にも気を付けなければならない。

(2) 内容面での考慮事項

① 企業価値・株式価値評価額と買収価格との乖離の程度

  企業買収に当たり、

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