[M&A戦略と法務]

2018年11月号 289号

(2018/10/15)

中国での企業買収に関わる近時の法改正の動向

中西 健太郎(TMI総合法律事務所 弁護士)
王 嶺(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
 MARR2014年7月号に掲載された「社会構造の変革期における中国M&A関連法制の最新事情」(以下「2014年中国M&A関連法制の最新事情」という)において、中国M&Aに関連する法改正や実務の動向が紹介されている。中国のM&A市場はここ数年も期待を裏切ることなく顕著な成長を続けており、中国への外資参入や中国企業による海外進出に向けたダイナミックな動きを背景に、中国国内の関連法令の制定や改廃は数多くなされている。

 本稿では、主として外国企業による中国企業の買収の場面を念頭に、適用される法令を整理しつつ、ここ数年の法改正の動向について、特に重要性が高いと思われるものを紹介することとしたい。


1. 適用される主な法令について

(1)適用法令の概要

 外国企業による中国企業の買収はM&A取引である以上、一般法である中国の会社法、証券法、独禁法等とともに、各種事業を規制する業法等の法領域が問題となるのは言うまでもない。

 加えて、外国企業による中国企業の買収は、外国投資者(注1)による中国への対内投資に該当するため、買収対象企業の種類に応じて、下表記載の法令(いずれも省令レベルのもの)の適用をも受けることに留意する必要がある(表1)。

表1 適用法令の概要
対象企業種類別に適用される主な法令横断的に適用される主な法令
非外商投資企業(注2)「外国投資者の国内企業買収に関する規定」(商務部令2009年第6号。2009年6月公布・施行)「外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法」(商務部令2016年第3号。2016年10月公布・施行、2017年・2018年改正)
「外商投資産業指導目録(2017)」(発改委、商務部令2017年第4号。2018年6月公布、同年7月施行)
「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)2018」(発改委、商務部令2018年第18号。2018年6月公布、同年7月施行)
「外商投資企業の持分出資に関する暫定規定」(商務部2012年第8号令。2012年9月公布、同年10月施行、2015年改正)(注4)
外商投資企業「外商投資企業の投資者の持分変更についての若干の規定」([1997]外経貿法発第267号。1997年5月公布・施行)
「外商投資企業の合併及び分割に関する規定」([1999]外経貿法発第395号。1999年9月公布、同年11月施行、2001年・2015年改正)(注3)
(2)企業種類に関する補足説明

 まず、外商投資企業とは、主として「外商独資企業」、「中外合弁企業」及び「中外合作企業」(以下まとめて「三資企業」という)のことである。

 中国では、外国からの投資について横断的に定めた基本法はなく(注5)、上記3つの企業類型の基本法として、それぞれ「外資企業法」、「中外合弁経営企業法」及び「中外合作経営企業法」(以下まとめて「三資企業法」といい、表1記載の法令と併せて「外国投資者関連法令」という)がある。三資企業法のもとでは、会社の機関設計や重大な意思決定の方法等について、会社法とは異なる規制がなされている場合があり、かつ、このような場合において、三資企業法が会社法よりも優先的に適用されるべきかについて統一した解釈がない場面があるため、実務において屡々問題となる。

 他方、「外商投資股份有限公司の若干問題に関する暫定規定」(商務部令2015年第2号。2015年10月公布・施行)第3条によれば、外国株主が株式の25%以上を保有する外商投資股份有限公司(株式会社)も外商投資企業の一形態と分類されている。実務上、この種の会社はまだ数多くないが、外商投資企業という語が使われている場合には、単に三資企業のことを指しているのか(この場合がほとんどである)、それとも、外商投資股份有限公司(株式会社)のことをも含むのか、意識して読み分ける必要がある。

 次に、表1では細分化しなかったが、上場企業であるかどうかによって規制が異なるため、この点についても簡単に触れておく。買収対象としての上場企業とは、中国の株式流通改革所定のプロセスを終えた上場企業又は株式流通改革後に新たに上場した企業のことであるが、中国で上場しているかどうかに着目している分類であるため、厳密には、「外商投資企業」と「非外商投資企業」のいずれかの分類と重なり合う部分がある。そのような場合には、表1記載の規定に加えて、重畳的に「外国投資者の上場企業に対する戦略投資管理弁法」(商務部ほか令2005年第28号。2005年12月公布、2006年1月施行、2015年改正)が適用されることになる。

 なお、近年、店頭市場に相当する全国中小企業株式譲渡システム(いわゆる「新三板」)に関する規定の整備に伴い、同システムに登録(いわゆる「掛牌」)されている企業のことを新三板上場企業と称することがある。これらの企業は中国証券監督管理委員会による管理・監督を受ける「非上場公衆公司」と整理されており、規制の内容によっては上場企業に類似した扱いを受ける場面もあるが(注6)、株式が証券取引所で流通しているわけではなく、厳密には上場企業の定義には当てはまらない。


2. 会社法等の一般法の改正の動向

 一般法について、「2014年中国M&A関連法制の最新事情」の記述は、現在もほぼそのまま妥当すると考えてよい。

 具体的には、会社法は、

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング