[M&A戦略と会計・税務・財務]

2019年12月号 302号

(2019/11/15)

第149回 グループ企業再編の意義と留意点

竹内 信太郎(PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー)
飯田 智博(PwCアドバイザリー合同会社 シニアマネージャー)
  • A,B,EXコース
1.はじめに

 グループ内企業の再編は、企業が当該グループ一体での経営を推進するために過去から数多く実施されてきた打ち手の一つである。特に2000年代以降は、度々の商法・会社法や税法の改正によって法制度の観点からもその実行を促進されてきた側面があり、東証一部上場企業だけを見ても毎年数百件のグループ内の企業再編が実施されている。

 昨今のグローバル競争・イノベーション競争の激化、それに伴って事業環境がかつてないほど急激に変化している現状を踏まえると、そこから生じる課題に対応し、効果的かつ効率的なグループ経営を推進していくためには、企業グループの体制も現状を踏まえた形に変えていくことがより重要になってきているものと考えられる。

 このような中、実務上は実行スキームの決定に際して税務の観点が大きな割合を占めることもあり、本来は事前に十分に準備・検討を行うべき事業の将来像検討や業務プロセスの構築が後手に回っているケースも散見されるように思われる。

 本稿は、再編に際して考慮すべき実務上の論点について幅広く触れることを主眼として作成した。読者の皆様の一助になれば幸いである。


2.グループ企業再編の目的とパターン

(1)再編の目的

 個別論点について触れていく前に、そもそもグループ内企業の再編はどのような目的で実施されることが多いのか、また再編の型にはどういったパターンがあるのかを整理しておきたい。まず当然ではあるが、企業グループの置かれた事業環境(規制環境や事業特性、業界ポジション等も含む)、抱える課題、課題に対する解決策は、各企業から見た社内外の諸要因に応じて異なるものである。従って、グループ企業再編の目的もそれぞれの企業の置かれた状況や目指す姿によって異なってくる。

 例えば、機器の製造販売事業と当該機器のメンテナンス事業を行っている企業が両事業の強化を図る場合であっても、別法人で実施していたものを同一法人に集約し、企業内で横断的にリソースを活用することで当該機器事業全体としての強化を図る方法もあれば、同一法人で実施していたものを個別の法人に切出し、権限と責任を付与して、製造販売とメンテナンスのそれぞれで事業競争力の向上を目指していくという体制に移行する方法も考えられる。

 その他にも、法人を集約することで間接業務を効率化してコスト削減を図るといったものも典型的な例であるし、親会社からグループ全体に統一的に規律を通すためのガバナンス・管理体制の強化や見直しを主要な目的とするケースも多い。また、分社化により事業別の損益責任や採算性の見える化を一層推進することは、資本効率の向上という観点から事業のテコ入れを図るのにも有用である。

 また、昨今のM&A件数の増加、ならびに各企業でM&Aに関する知見の蓄積が進んできているのに伴い、M&Aに付随して組織再編を行うケースも増加している印象がある。例えば買い手側では、事業・法人受入れ後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション、M&A実行後の統合活動)の一環として同一国内にある既存事業と買収事業の法人を集約するといったケースや、買収実行前に将来の法人受入れ・買収を踏まえて既存の自社グループ法人を事前に再編しておくといった場合がある。同じく売り手側では、円滑な売却のために売却対象事業を予め一つの法人グループへ切出し・組み替え(カーブアウト)しておくことも多い。これらは、買い手にとっては買収時に想定していた価値を毀損しないため、売り手にとっては買い手との交渉をより有利に進めるために重要な位置付けを占めている。

(2)再編のパターン

 再編は様々な目的で実行されるものであるが、それらの目的に沿った再編パターンもまた複数考えられることが多い。実務上は、目的に応じて取り得るパターンにつき、そのパターン毎に実行可能性やメリットを比較検討した上で選択していくこととなる。当然、対象となる事業・会社や再編の目的が複数存在する場合も多く、すべての目的を達成するためにパターンをいくつか選択し、再編を段階的に実行する場合もある。

 再編のパターンとしては、

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