1. 多角化を推進してきた凸版印刷と大日本印刷
本稿では印刷業界国内2強の凸版印刷と大日本印刷のM&A動向を概観してみた。
凸版印刷は創業明治33年(1900年)であり昭和24年(1949年)に東京証券取引所に株式上場、また、大日本印刷は創業明治9年(1876年)であり昭和24年に(1949年)東京証券取引所に株式を上場させており、両社とも同業界における老舗である。
現在、両社とも自社の事業を、情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクスに大別している(文末※1参照)。
各事業はさらに細分化され、凸版印刷の場合、情報コミュニケーションは、セキュア関連、マーケティング関連、コンテンツ関連、その他の分野に分かれる。また、生活・産業はパッケージ関連、高機能エネルギー関連、建装材関連、その他の分野に、そして、エレクトロニクスはディスプレイ関連、半導体関連分野に分かれる(図表1参照)。売上構成比(2018年3月期)は、情報コミュニケーションが59%を占め、この他、生活・産業が28%、エレクトロニクスが14%を占めている。
大日本印刷の場合、情報コミュニケーションは、出版関連事業、情報イノベーション事業、イメージングコミュニケーション事業に分かれる。また、生活・産業は包装関連事業、生活空間関連事業、産業資材関連事業に、そして、エレクトロニクスはディスプレイ関連製品事業、電子デバイス事業に分かれる(図表2参照)。売上構成比(2018年3月期)は、情報コミュニケーションが55%を占め、生活・産業が28%、エレクトロニクスが13%を占めている。
こうしてみると両社とも情報コミュニケーションの売上構成比が50%超を占めるとはいえ、その事業は多岐に渡っている。例えば両社とも1950年代から印刷技術を基にしたエレクトロニクス関連の技術開発を開始。その後、半導体部材や中小型液晶パネル製造などを事業化し、凸版印刷は2002年3月期に、また、大日本印刷は2003年3月期に同事業の業績の開示を始めている。
この他にも飲料の長期保存を可能とする紙容器や、交通利用、金融機関利用向けなどのICカードの製造、さらにはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の受託も行っている。
両社とも連結決算が導入された2000年3月期以来、1兆円を上回る売上高を計上してきた(図表3参照)。紙媒体の出版及び広告の減少が継続する中でも、長年に渡って多角化を推進してきたことが売上維持の要因と考えられる。
(図表1)凸版印刷の事業概要セグメント | 区分 | 主要な製品・サービス |
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情報コミュニケーション 事業分野 | セキュア関連 | 証券類全般、通帳、ICカード、各種カード、BPO(各種業務受託)など |
ビジネスフォーム、データ・プリント・サービスなど |
マーケティング関連 | カタログ・パンフレット・チラシ・POPなどの広告宣伝印刷物、各種プロモーションの企画・運営、コミュニケーション業務の各種アウトソーシング受託など |
コンテンツ関連 | 週刊誌・月刊誌などの雑誌、単行本、辞書・事典などの書籍、教科書、電子書籍関連など |
その他 | 教科書出版、旅行代理店業務など |
生活・産業事業分野 | パッケージ関連 | 軟包装材、紙器、液体複合容器、ラベル、段ボール、プラスチック成形品、受託充填・コントラクトなど |
高機能・エネギー関連 | 透明バリアフィルム、二次電池用関連部材、情報記録材など |
建装材関連 | 化粧シート、壁紙、床材、エクステリア商材など |
その他 | インキ製造など |
エレクトロニクス 事業分野 | ディスプレイ関連 | 液晶カラーフィルタ、反射防止フィルム、TFT液晶など |
半導体関連 | フォトマスク、半導体パッケージ製品など |
(出所)有価証券報告書
2.凸版印刷と大日本印刷の主要なM&A
多角化を推進する中で、M&Aは両社にとって事業基盤を形成する重要な手段となってきた(図表4、図表5参照)。以下、幾つか主要な例について触れてみたい。
両社が印刷事業で培ったパターニングの技術などを活かして製造している主力製品に、フォトマスクという半導体製造用の部材がある。フォトマスクは微細な半導体回路のパターンを形成したガラス基板で、回路をシリコンウェハに焼き付けるときの原版となる。フォトマスクに関わる両社の世界シェアはトップクラスと伝えられている。両社は主に1990年代後半から2000年代前半にかけ、M&Aや合弁会社設立によってフォトマスクの事業基盤を強化した。
凸版印刷は2000年、