[特集インタビュー]

2024年11月号 361号

(2024/10/09)

第一生命HD、べネワン対抗TOB成功の舞台裏

――入念な事前研究と平時における準備が困難な意思決定を可能に

井手 飛人(第一生命ホールディングス 経営企画ユニット 新規事業戦略グループ 兼 事業創造グループ ラインマネジャー)
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 第一生命ホールディングス(HD)は2024年5月22日、福利厚生サービスを手掛けるベネフィット・ワンを完全子会社化するための手続きを完了した。買収総額は約2920億円となる。

 ベネフィット・ワンを巡って、医療情報サイトを運営するエムスリーと第一生命HDの買収合戦が繰り広げられたのは記憶に新しい。エムスリーは2023年11月にベネフィット・ワン株式の過半数を1株1600円で買い取る提案を行ったが、エムスリー案に対して第一生命HDがわずか3週間後に対抗TOBを提案。TOB価格を1株2173円に引き上げ株主の賛同を得たことで、エムスリーの買収提案は不成立となり、第一生命HDによるTOBが成立した。

 今回のベネフィット・ワン買収は、伝統的な名門大企業がすでに進行中のTOBに対抗提案をする日本では異例のケースとして大きな注目を浴びた。

 第一生命HDが対抗的手段も辞さなかった背景には、国内生保市場が人口減少によって先細りする中での強い危機感がある。第一生命HDは3月29日に発表した新中期経営計画で、2026年度末までに2023年度始時点の時価総額(3兆円)を倍増させる目標を掲げており、今回のベネフィット・ワン買収もそのための重要な施策として位置づけられている。新たな中計では、グループ修正利益で4000億円、ROEは10%程度を目指し、将来的には安定的に10%を超える水準に引き上げる方針だ(2024年3月期のROEは約8%)。

 新中計では、国内ビジネスで①従来の保険業から「保険サービス業」への変革、②ベネフィット・ワンをハブとした非保険領域の拡大、エコシステム構築、③デジタル等を中心とした「新規領域での探索」などを注力ポイントとして掲げている。

 こうした経営戦略を進めていくなかで、ベネフィット・ワンは、第一生命HDにとって重要な事業体となる。ベネフィット・ワンの福利厚生サービスは、健康増進や娯楽など多様なサービスを提供するプラットフォームで、約1万6000の企業・団体、約976万人の顧客を獲得している。第一生命HDは、ベネフィット・ワンと共同で開発した新しい保険商品をこのプラットフォーム上で提供することなども検討している。

 今回のTOBのポイントは、第一生命HDが通常のM&Aでは考えられない短い期間で社内意思決定をまとめ上げ、対抗提案に落とし込み、提案を成功させた点にある。対抗TOB進行のプロセス、TOB成功に至るまでの状況等について、担当幹部に話を聞いた。
井手 飛人

井手 飛人(第一生命ホールディングス 経営企画ユニット 新規事業戦略グループ 兼 事業創造グループ ラインマネジャー)

2004年4月第一生命保険相互会社(現株式会社)入社。法人向け団体保険制度の引受部門である団体保障事業部での勤務後、第一生命経済研究所(2009年度~)、第一フロンティア生命(2011年度~)への出向を経て、2015年4月以降、経営企画部門での業務に従事。主に、大手金融機関との業務提携、グループ会社の育成・管理、ヘルスケア領域等の新規事業開発、M&Aなどに取り組んでいる。ここ数年の担当案件は、事業譲渡によるQOLeadの設立、第一スマート少額短期保険の新設、アイペットホールディングスの買収、ベネフィット・ワンの買収など。

戦略を描いたチームがそのまま案件実行へ

―― ベネフィット・ワンへの対抗TOBが成功しました。最初に、ベネフィット・ワン対抗TOB提案時に組織体制をどう作ったかについて教えて下さい。

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