[M&A戦略と法務]

2021年9月号 323号

(2021/08/16)

破産会社から事業を譲り受ける際の留意点

~ポストコロナを見据えて~

相澤 豪(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
菅野 邑斗(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
第1 はじめに

 今般のコロナ禍で経営状況が厳しくなった企業でも、緊急融資や支払猶予などの様々な施策のおかげで資金繰りをつないで事業継続できている企業も多いところと思われる。しかし、これらの企業は、負債が過大になってしまっているため、コロナ禍が明けて支援施策がなくなった段階においては、平常運転をしようにも難しい状況になることが想定され、かかる企業の再建のために、債務整理をセットとしたスポンサー支援の要請が増えてくることが想定される。

 その際の債務整理手続は、私的整理民事再生・会社更生などの再建型手続も採られ得るところであるが、時間的・資金的制約などから、それらの手続が選択できないことも多い。特に、長きに亘るコロナ禍で、税金や年金債務などの優先的に支払われるべき債権が過大となっている場合もあろう。そうなると一般債権者への弁済原資が拠出出来ず、その場合には上記の再建型手続を採ることも出来ない。そのような場合の事業再建のための手法としては、清算型の手続である破産手続+事業譲渡(破産した会社から、事業を譲り受ける方法)が有用である。

 スポンサーからすると、破産した会社から事業譲渡を受けるのには抵抗感があるかもしれないが、いくつかの点に注意すれば通常の事業譲渡と異なることはなく、むしろ、通常の場合よりも好条件で事業を譲り受けられる機会ともなり得る。そこで本稿では、破産を予定している企業(以下「破産予定会社」又は「破産会社」という)から支援の要請・打診を受けた場合に、スポンサー候補としてどのような点を注意すべきかについて、筆者の経験を踏まえて、実務的な観点から疑問に思われがちな項目を取り上げることとした(なお、民事再生の可能性が残っている場合に関しては、筆者の過去の論考(相澤豪「民事再生会社買収におけるスポンサーとしての留意点」[M&A戦略と法務]2016年12月号266頁(注1))も参照して頂きたい。)。


第2 スキーム(実行タイミング)

1 通常の手法(破産手続開始日即日譲渡)

 破産予定会社から事業を譲り受けようとする場合、迅速に実行が可能な事業譲渡の手法が用いられる(注2)。

 その具体的な実行方法・タイミングとしては、まず、破産申立てに先立ってスポンサーが破産予定会社と事業譲渡に係る契約を締結し、その後速やかに破産予定会社が破産申立てを行い、同日に開始決定を受けて、破産会社の地位を承継した破産管財人(以下「管財人」という)が即日譲渡実行を行う、という形が採られる場合が多い。

 かかる形が採られる理由は、事業棄損を抑える観点からは極力早いタイミングで実行までしておきたいところではあるものの、破産手続が開始する前に実行してしまうと、管財人から事業譲渡について否認権を行使される(実務上は、相当対価と譲渡対価の差額を追加支払いすることにより解決することも多い。)リスクが残ってしまうからである。そのため、かかるリスクは回避したいスポンサーとしては、実行(クロージング)のタイミングはあくまでも破産手続開始の後にすることが望ましい(そこで、本稿においても基本的にかかるスキームを前提に各項目を検討する。)。

 但し、そのためには、破産予定会社(実際にはその代理人弁護士)が、破産申立て前の段階から裁判所に相談を行うとともに、(裁判所に選任される)管財人候補者に対しても事情を十分に説明して、事業譲渡の内容が合理的であること(特に対価の相当性)を理解してもらう必要がある。管財人としては、裁判所からの就任打診から開始決定までのわずかな期間に、事業譲渡に係る条件の相当性を検証する必要があるだけでなく、就任後即座に労働組合等からの意見聴取をした上で裁判所の許可も得なければならず、さらに実行後には債権者への説明が必要となるためその準備も必要となる。このような管財人の立場を理解し、適時適切な情報提供とコミュニケーションができる代理人弁護士でないと、管財人の理解を得られず、予定通りに即日実行できないリスクがある。従って、破産予定会社の代理人弁護士は、倒産実務に精通していることが望ましい。裏を返せば、もし同代理人が倒産事件に不慣れなようであれば、スポンサー側のリーガルアドバイザーにて、一定のサポートが必要な場合もあり得よう。

2 即日譲渡が困難な場合(保全管理手続の利用)

 もっとも、上述のような破産手続開始日の即日実行にそぐわない事案もある。例えば、

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