[寄稿]

2022年6月号 332号

(2022/05/13)

株主意思確認総会を巡る近年の動向

神田 秀樹(学習院大学 法科大学院 教授)
  • A,B,EXコース
1.はじめに

 昨年(2021年)の秋に東京機械製作所において敵対的買収者に対する対抗措置として計画された新株予約権無償割当てに関し、その発動の可否について、買収者(とその関係者)および対象会社の取締役(とその関係者)を除外した株主で出席した者による「株主意思」の確認が行われ、裁判所はその点をも含めて対抗措置を会社法上適法と判断して、差止めの仮処分を認めなかった(東京地決令和3年10月29日資料版商事法務453号107頁・東京高決令和3年11月9日資料版商事法務453号98頁・最決令和3年11月18日資料版商事法務453号94頁)。このような総会はMOM(majority of minority:利害関係のある株主を除外した株主による多数決)と呼ばれているが、東京機械製作所の事案は裁判所の判断が出された初めてのケースである。この事案に係る裁判所の決定文で「株主意思確認総会」という用語が使われ、今後この用語が定着するように思われる。用語以上に重要なことは、この事案に係る裁判所の判断によって、上記のような利害関係のある株主を除外した株主(で出席した者)による意思確認が会社法におけるこの分野での紛争解決規範において重要な意味を有することとなる可能性が高い。本稿は東京機械製作所の事案を論じるものではないが、こうした株主意思確認総会について筆者が気がついた点をいくつか指摘してみたい。

2 経緯

 株主意思確認総会とは、会社法295条2項に規定する株主総会の権限(株主総会が決議をすることができる事項)に属さない事項について審議をする総会である。そこにおける「決議」は、会社法309条1項に規定する決議ではなく、従来は「勧告的決議」などと呼ばれていた。こうした総会について普通決議か特別決議かが議論されることもあるが、会社法309条1項の決議でない以上、これを議論するのはややミスリーディングであり、どれだけ多くの株主が議案に賛成したかという事実を端的に問題にするほうがベターな場合が多い。このことからも、用語としては「株主意思確認総会」と呼ぶほうが実態に即していて、妥当な用語法である(もっとも、本稿では、従来から使われてきた経緯から「決議」という用語も使用する)。

 敵対的な買収への防衛策の導入または対抗措置の発動に際してこのような総会決議が行われるようになった淵源は、2005年の経済産業省と法務省の「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(2005年5月27日)(以下「指針」と略す)にあると見受けられる。すなわち、この「指針」において、平時導入型の買収防衛策の会社法上の適法性を基礎づける3つの原則の1つとして「事前開示・株主意思の原則――買収防衛策は、事前にその内容などを開示し、株主等の予見可能性を高める、株主の合理的意思に依拠したものとする(株主総会の承認を得て導入する、取締役会で導入する場合には株主の意思で廃止できる措置を採用する)」が挙げられている。この「指針」は、要するに、買収防衛策の導入自体の決定が会社法上株主総会の権限とされておらず会社法上はそれを取締役会限りで決定することができる場合であっても、利害関係者である取締役を構成員とする取締役会がそれを決定する場合には、それが株主の合理的意思に依拠したものでないと会社法上の適法性に疑義が生じるというスタンスに立っていた。なお、当時、指針の策定時に生じたニッポン放送事件(平時導入型の防衛策ではなく有事に対抗措置が実施された事案)に関する東京高裁決定(東京高決平成17年3月23日判例時報1899号56頁)が権限分配法理を唱えていたことも重要であった(倉橋雄作「近時の買収防衛策発動事案と権限分配論」資料版商事法務453号3頁(2021年)参照)。そして、その後実務で広く定着した対抗措置が新株予約権無償割当ての方法をとるものであり、新株予約権無償割当ての決定は会社法上取締役会の権限であり株主総会の権限ではないので(会社法278条3項)、株主意思確認総会が開催されるようになったということができる。

 なお、上記の指針制定後、いろいろな形の平時導入型の買収防衛策(事前警告型の買収防衛策と総称される)がそれなりの数の上場企業において採用された時期があったが、

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