[【法務】ESGの新潮流とM&A(大江橋法律事務所)]

(2022/07/07)

【第1回】 押えておくべきサステナブル・ファイナンスとESG投資との関係

十河 遼介(大江橋法律事務所 弁護士)

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 資本市場においては、非財務情報であるESG(環境・社会・ガバナンス)情報を投融資判断に組み込み、長期的なリターンの向上を目指すことが不可逆的な潮流となっている。機関投資家や金融機関は、投融資先企業の発信する様々なESG情報の意味やビジネスへの影響度を理解し、他社の情報と比較しつつ、企業がESG課題に適切に対処し、持続的な企業価値の向上に繋げられるかを見極め、時には投融資先企業と積極的な対話や助言をすることが求められる。また、企業の側では、SDGs・ESGの観点から様々な取組が進められているが、機関投資家等からの信頼と評価を勝ち得るためには、自社の事業に関するESG課題の重要性(マテリアリティ)を正確に把握し、成長戦略やリスク管理の対象に適切に組み込んだ上、これを適時に開示することが必要となる。

 自社のESG課題に即したソリューションの一つとして、事業ポートフォリオを変革するために、新たな収益源になることも見込んで他社の環境技術や脱炭素関連の事業を買収したり、自力では解決困難なESG課題を抱えた自社事業をカーブアウトしたりするM&Aが、今後ますます活発化していくことが見込まれる。

 連載「ESGの新潮流とM&A」では、このような投資環境と事業環境の変化に直面する資本市場の関係者に向けて、大江橋法律事務所のESG・サステナビリティ法務に詳しい弁護士が、企業価値に影響し得るESG・サステナビリティに関する重要テーマごとに、法規制を含む国内外の最新動向をアップデートする。M&Aの実務に携わる皆様の参考になれば幸いである(大江橋法律事務所 ESG/サステナビリティ プラクティスチーム)。

 取り上げるテーマ
第1回サステナブル・ファイナンス
第2回非財務情報開示
第3回ESGアクティビズム
第4回ビジネスと人権
第5回環境と訴訟
第6回労働環境(D&I、LGBTQ等)
補論スポーツと人権

サステナブル・ファイナンスとSDGs・ESG

 サステナブル・ファイナンスとは、持続可能な社会を実現するための資金調達手段のことをいう。社会の持続可能性との関係で近年注目を集めているのが持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals(SDGs))である。SDGsは、2015年9月開催の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載され、「誰一人とり残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を期限とする17のゴールと169のターゲットから構成されている。持続可能な社会の実現に向けて、具体的な目標や課題を設定したものがSDGsであり、そのための資金を提供するものがサステナブル・ファイナンスであると整理することができる。

 SDGsと並んでよく登場するのが、ESGである。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)及びGovernance(企業統治)の略称である。企業価値の算定や企業への投資の場面において、従来ESGは非財務的要素と呼ばれていた。例えば、企業において従業員の労働環境が改善された場合、社会的な価値が上昇したといえるが、それ自体によって企業の収益が上昇するわけではなく、企業価値が向上するとは考えられていなかった。そのため、株主の利益を重視するという従来の株主資本主義的な観点からはESG要素は重視されてこなかった。ところが、2019年8月に公表されたビジネス・ラウンドテーブルの「企業の目的に関する声明」で、全てのステークホルダーの存在が不可欠であり、その全員に価値をもたらすことを約束すると発表されたように、近年では、株主資本主義から脱却し、株主のみならず他のステークホルダーの利益をも重視するというステークホルダー資本主義へ移行するという傾向がみられるようになってきた。そして、ステークホルダー資本主義の観点からは、ESG要素も重視されることになる。例えば、先程の例でいえば、企業にとって従業員も株主とは別のステークホルダーである以上、従業員の利益のために労働環境の改善という社会的な価値を提供すべきということになる。しかも、その結果、その企業は社会問題に取り組んでいるとの評価を得ることができ、レピュテーションやブランドの観点から企業価値が向上する可能性がある。そのため、企業価値の向上にはマルチステークホルダーに対するESG的な価値の提供が不可欠であるとの認識が拡大するようになった。そして、企業に対する投資においては、ESG要素を投資判断に組み込むことで適切にリスクを管理し持続的・長期的なリターンを獲得すべきという発想に繋がることになり、このような発想に基づく投資手法がESG投資と呼ばれるようになった。ESG投資は、投資の観点から運用収益の向上を重視しつつも、そのためにESG的課題の解決を通じた持続可能な社会の実現を目指して資金の投融資を行うのであり、サステナブル・ファイナンスを構成すると考えられる。

 以下では、サステナブル・ファイナンスについて、ESG投資を中心に説明し、サステナブル・ファイナンス(ESG投資)の具体例として洋上風力発電事業とグリーンビルディングについて概説する。

ESG投資とは何か

 ESG投資には様々なアプローチがある。歴史的に見ると、1920年代に英米のキリスト教教会で酒、煙草及びギャンブル等を投資対象から除外したこと(ネガティブ・スクリーニング)がESG投資の始まりとされ、ネガティブ・スクリーニングは現在でもESGの観点から問題のある企業・事業を投資対象から除外する手法として用いられている。

 様々なアプローチがある中で現在注目されているのが、SDGs債に対する投資である。日本証券業協会によれば、SDGs債には、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンド及びトランジションボンドが含まれるとされている。各SDGs債については国内外で各種ガイドラインが発行されており、主要なガイドラインは以下の表のとおりである。なお、ローンについても同様の区分がなされている。

(図表1)
SDGs債のガイドライン
ボンド
国外国内
グリーンGreen Bond Principles (ICMA)グリーンボンドガイドライン (環境省)
ソーシャルSocial Bond Principles (ICMA)ソーシャルボンドガイドライン (金融庁)
サステナビリティSustainability Bond Guidelines (ICMA)グリーンボンドガイドライン (環境省)/ソーシャルボンドガイドライン (金融庁)1)
サステナビリティ・リンクSustainability-Linked Bond Principles (ICMA)
トランジションClimate Transition Finance Handbook (ICMA)クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針 (金融庁・経済産業省・環境省)

1) サステナビリティボンドについては、グリーン性を有する場合にはグリーンボンドガイドラインが適用され、ソーシャル性を有する場合にはソーシャルボンドガイドラインが適用される。

ローン
国外国内
グリーンGreen Loan Principles (LMA等)グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン (環境省)
ソーシャルSocial Loan Principles (LMA等)
サステナビリティ
サステナビリティ・リンクSustainability Linked Loan Principles (LMA等)グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン (環境省)
トランジションクライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針 (金融庁・経済産業省・環境省)2)

2) クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針は、「主に債券を対象とした記載となっているが、ローンにおいても同様の考え方を活用することが可能である」とされている。

 (出所)筆者作成  

 SDGs債については、明確なルールが定められているわけではないため、何を基準にSDGs債と判断すればよいのか難しい部分があった。しかし、法的拘束力はないものの、ガイドラインが参照可能な基本的枠組みを提示したことにより、発行体がこれに依拠してSDGs債を発行できることになった。また、SDGs債に明確なルールがないことに起因して、実際の環境改善効果が伴わないにもかかわらず、企業やその商品・サービス等があたかも環境に配慮しているかのように見せかけること(グリーンウォッシュ)が問題視されているが、ガイドラインが発行体に情報開示を要求し、開示情報をもとに投資家その他の市場関係者がSDGs債を評価することが可能となり、市場を通じてグリーンウォッシュを牽制することが期待されている。

 以下では、各SDGs債について、ガイドラインに沿ってその特徴と要素を見ていく。

グリーン、ソーシャル、サステナビリティボンド

 グリーンボンド、ソーシャルボンド及びサステナビリティボンドは、いずれも資金調達目的が特定の使途に限定された債券で、その違いは以下の表のとおり調達資金の使途にある。

(図表2)
SDGs債の種類グリーンボンドソーシャルボンドサステナビリティボンド
調達資金の使途環境関連目標に貢献する事業(グリーンプロジェクト)への充当社会的課題の解決に貢献する事業(ソーシャルプロジェクト)への充当グリーンプロジェクト及びソーシャルプロジェクト双方への充当
(出所)筆者作成

 グリーンボンドの発行事例としては、再生可能エネルギー発電施設の設置や後述するグリーンビルディングの建設等がある。ソーシャルボンドの発行事例としては、低所得者層にもアクセス可能な医療機関の建設や公立学校の建設等がある。サステナビリティボンドの発行事例としては、コーヒー豆の生産支援があり、農地や水資源等の持続可能な利用に貢献するとともに、小規模農家に対する技術支援や設備投資を通じた所得向上に寄与したという点で、グリーンプロジェクトとソーシャルプロジェクトの双方を充たすものとされた。あるプロジェクトが環境面での便益と社会面での便益を兼ね備える場合、債券をグリーンボンド、ソーシャルボンド又はサステナビリティボンドのどれに分類するかについては、当該プロジェクトの主な目的に基づいて発行体が決めるべきとされている。

 なお、気候変動リスクへの対応が喫緊の課題となる中で、そのための資金調達手段としてグリーンファイナンスが必要不可欠となっており、上記のグリーンボンドや同様の融資であるグリーンローンがその中心的役割を担うことが期待されている(注1)。

◆核となる要素と重要な推奨項目

グリーンボンド、ソーシャルボンド及びサステナビリティボンド

【核となる要素】
  • 調達資金の使途
  • プロジェクトの評価・選考プロセス
  • 調達資金の管理
  • レポーティング
【重要な推奨項目】
  • フレームワークの策定・公表
  • 外部評価
 グリーンボンド、ソーシャルボンド及びサステナビリティボンドには、上記のとおり、それぞれ内容に含めるべき「核となる要素」と内容に含めることが望ましい「重要な推奨項目」がある。すなわち、前述のとおり、調達資金の使途がグリーンプロジェクト、ソーシャルプロジェクト又はその双方であることが明示され、発行体は当該プロジェクトをどのように評価しそれを選定したのかを明らかにすべきとされている。また、発行体による調達資金の保管状況が追跡され、充当結果が検証されるべきであり、発行体は調達資金に関する情報を継続的に開示すべきとされている。さらには、発行体は、資金調達に関するフレームワーク等が実際に4つの「核となる要素」に適合していたのかを説明し、外部評価機関から適合性についての評価を取得することが望ましいとされている。

サステナビリティ・リンク・ボンド

 サステナビリティ・リンク・ボンドは、資金調達目的が特定の使途に限定されていない債券であるため、資金を事業運営に充当することも可能である。サステナビリティ・リンク・ボンドの特徴は、一定の条件を充たすと債券の内容が変化するという点にある。発行事例としては、事業用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標として設定し、債券の内容として目標を達成できなかった場合には利率が増加すると定められた例がある。

◆核となる要素

サステナビリティ・リンク・ボンド

【核となる要素】
  • KPIsの選定
  • SPTsの設定
  • 債券の特性
  • レポーティング
  • 検証

 サステナビリティ・リンク・ボンドには、上記のとおり、内容に含めるべき「核となる要素」がある。すなわち、発行体は、ESGの課題にとって重要な指標(Key Performance Indicators (KPIs))を選定し、KPIsごとに達成すべき目標(Sustainability Performance Targets(SPTs))を設定すべきとされる。そして、SPTsが達成された場合又は達成されなかった場合に債券がどのように変化するかを定めておくべきとされる。上記の発行事例との関係でいえば、事業用電力を100%再生可能エネルギーで賄うというSPTsが達成されなかった場合に、債券の利率が増加するという変化が生じることになる。そして、発行体は、KPIsに関するSPTsの達成状況や債券の変化の有無について継続的に開示すべきで、外部評価機関からも検証を受けるべきとされている。

トランジションボンド

 トランジションボンドには、資金調達目的が特定の使途に限定された債券と限定されていない債券がある。トランジションボンドの特徴は、特に温室効果ガス排出削減が容易ではないセクター(現段階において脱炭素化が困難な産業部門・エネルギー転換部門等)において、低炭素化への取組、すなわち段階的な脱炭素化への移行(トランジション)を支援する点にある。発行事例としては、重油燃料船を使用する海運会社において、将来的には水素・アンモニアを活用したゼロエミッション船の使用を想定しながらも、それを実現するまでのブリッジソリューションとして、重油燃料船よりも温室効果ガス排出量の少ないLNG燃料船を調達するという例がある。なお、トランジションファイナンスについては、経済産業省により業務分野ごとのロードマップの策定が行われており、各業界における気候変動対策の指標となるとともに投融資を行う金融機関にとって事業の適格性を判断する際の指標となると考えられる。

◆重要な推奨開示要素

トランジションボンド

【重要な推奨開示要素】
  • 発行体のクライメート・トランジション戦略とガバナンス
  • ビジネスモデルにおける環境面のマテリアリティ
  • 科学的根拠のあるクライメート・トランジション戦略(目標と経路を含む)
  • 実施の透明性

 トランジションボンドは他のSDGs債と排他的な関係にあるわけではない。そのため、例えば資金調達目的がグリーンプロジェクトに限定される場合にはグリーンボンドの要件を充足する必要があり、資金調達目的を限定せずにサステナビリティ・リンク・ボンドとして発行する場合はサステナビリティ・リンク・ボンドの要件を充足する必要がある。これらの要件に加えて、債券がトランジションボンドである場合には、上記に示す「重要な推奨開示要素」の開示が推奨されることになる。

 これら各SDGs債の関係は、以下の図のように整理することが可能であると考えられる。

(図表3)各SDGs債の関係の概念図
(出所)筆者作成

サステナブル・ファイナンス(ESG投資)の具体例

■ 洋上風力発電事業

 サステナブル・ファイナンスの具体例は多岐にわたるが、そのうちの一つとして挙げられるのが洋上風力発電事業である。2050年カーボンニュートラルに向けた脱炭素化において、再生可能エネルギーの活用は不可欠であるところ、国内においてはFeed-in Tariff(FIT)制度の下で太陽光発電事業や風力発電事業が普及し、これらに適した事業用地が少なくなってきている。他方、日本は海に囲まれているという特性を持ちながらもヨーロッパ等で盛んな洋上風力発電事業の運用事例が少なく、現在注目を集めている。洋上風力発電事業を含む再生可能エネルギー発電事業は、発電時の脱炭素化を図るものとしてグリーンプロジェクトを代表するものといえる。そのため、洋上風力発電事業における資金調達手段として、グリーンボンドやグリーンローンを利用することも考えられる。

 これまで国内で洋上風力発電事業が普及してこなかった原因は陸上風力発電事業では見られない課題を抱えていたからであったが、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)が2019年4月から施行されたことで、これらの課題が整理された。すなわち、洋上風力発電事業を実施するにあたっては海域の一部を長期間占有することになるが、従来は一般海域を占有する統一的な法的根拠が明らかではなかった(注2)。しかし、再エネ海域利用法が一般海域の占有を最長30年間認めたことによりこの問題が解決された。また、洋上風力発電事業を行うにあたっては漁業関係者や船舶港運事業者等の海域を先行的に利用している人々との利害関係の調整が必要になるが、再エネ海域利用法は協議会を設置して利害関係の調整を図ることとした。

 再エネ海域利用法の施行により洋上風力発電事業の実現に向けた準備が進む中で、2021年12月には三菱エナジーソリューションズ株式会社を代表企業とするコンソーシアムが、(1)秋田県由利本荘市、(2)秋田県能代市、三種町及び男鹿市並びに(3)千葉県銚子市の3海域で洋上風力発電事業者として選定された。洋上風力発電事業者の選定にあたり、公募の際の入札価格の上限は29円/kWhに設定されていたが、当該コンソーシアムはこれをはるかに下回る価格で入札したことで注目を集めた((1)秋田県由利本荘市が11.99円/kWh、(2)秋田県能代市、三種町及び男鹿市が13.26円/kWh並びに(3)千葉県銚子市が16.49円/kWh)。これら3案件が、先行する長崎県五島市沖の洋上風力発電事業と併せて、洋上風力発電事業のリーディングケースになることが期待されている。

 なお、発電事業全般で考慮しなければならないのがFeed-in Premium(FIP)制度の導入である。従来のFIT制度の下では、発電事業者は発電した電力の全量について電力会社等による固定価格での買取りが保証されていたが、2022年4月から導入されたFIP制度の下では、基準価格はプレミアムが上乗せされるものの市場価格に連動した変動価格とされている。したがって、FIP制度においては、電力会社等からの長期かつ安定した売電収入が必ずしも保証されるものではなくなるため、洋上風力に限らず発電事業をプロジェクトファイナンスベースで行う場合、これまで以上にキャッシュフローの安定性への注意が必要となる(注3)(注4)。

■ グリーンビルディング

 サステナブル・ファイナンスの対象として注目されているもう一つの具体例がグリーンビルディングである。グリーンビルディングとは、エネルギー効率等の環境性能に配慮した建築物のことをいう。そのため、グリーンビルディングの開発又は取得に要する資金調達手段として、グリーンボンドやグリーンローンを利用することも考えられる。

 このようなグリーンビルディングが注目されている背景には、投資判断にESG要素を考慮するという傾向に加え、法令上の規制においてもESG要素が考慮されていることがある。例えば、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律第11条第1項によると、一定の規模以上の建築物の新築又は増改築については、建築物エネルギー消費性能基準に適合することが要求されている。また、同条第2項が本規定を建築基準関係規定とみなすことにより、対象となる建築物が建築基準法に基づく建築確認及び完了検査の対象となり、基準に適合しなければ、工事着工や使用開始ができないことになる。

 このような建築物エネルギー消費性能基準への適合義務が課された結果、もしESG要素の考慮が十分でなく、建築物エネルギー消費性能基準を満たすことができない又は満たすのに膨大な費用が掛かるといった場合には、建築物はその新築又は増改築が禁止され、資産価値が下落して場合によっては座礁資産になってしまう。他方、ESG要素が十分に考慮されていれば、建築物の新築又は増改築が認められることはもちろん、環境志向のテナントの誘致が見込めることや環境に配慮したブランディングとして高めの賃料を設定できることから、資産価値を高めることにもつながる。

 グリーンビルディングの中には施設内外に緑化設備を含むものもあるが、エネルギー効率等の環境性能に配慮したか否かは必ずしも外観から明らかではない場合も多いため、近年では外部団体からのグリーンビルディングの認証を取得する例が増えている。国内では、CASBEE、BELS及びDBJグリーンビルディング等の認証があるが、アメリカのLEEDやイギリスのBREEAM等海外の認証を取得する例もある。サステナブル・ファイナンスは、このようなグリーンビルディングの開発又は取得のための資金調達手段としても注目されているのである。

(注1) グリーンファイナンスについては、十河遼介「ESG投資とグリーンファイナンス」大江橋ニュースレター2022年4月号16頁(2022年4月1日)を参照。

(注2) 一般海域とは異なり、港湾区域においては、港湾法等の公物管理法が存在していたため、当該法律の定める管理制度に従い占有許可を受けて洋上風力発電事業を行うことが可能であった。これに対し、一般海域においては、これまで海域の占有に関する統一的な法的根拠がなく、都道府県の条例により調整されるべきとの整理がされてきたが、都道府県の条例は洋上風力発電事業を想定した内容となっておらず、また都道府県ごとに内容が異なり統一性がない等の問題点があった。

(注3) FIP制度の下では、売電方法として、卸電力取引市場での売却や小売電気事業者への売却が考えられる。この点、卸電力取引市場での売電については、市場価格の変動リスクがあり、キャッシュフローが不安定となりやすい。他方、小売電気事業者への売電については、長期間かつ固定価格での売電契約を締結することができれば、FIT制度の場合と同様の安定したキャッシュフローを確保することが可能となる。

(注4) FIP制度は2022年4月1日から開始されたが、風力発電事業については、2022年度は、その規模にかかわらずFIP制度のみが適用される区分はなく、50kW以上の場合にFIT制度とFIP制度が選択可能であるとされている。風力発電事業における今後のFIP制度の適用に関し、調達価格等算定委員会による2022年2月4日付「令和4年度以降の調達価格等に関する意見」によれば、陸上風力発電事業については、2023年度よりFIP制度のみ適用となる区分が定められ、基準としては原則として50kW以上とされた。また、洋上風力発電事業については、風車が海底に固定されている着床式の場合、再エネ海域利用法の適用対象/適用外によらず、2024年度よりFIP制度のみが適用となり、風車が海洋に浮いている浮体式の場合、2023年度及び2024年度もFIP制度のみが適用となる区分を定めないとした上で、今後の動向を踏まえ検討することとされている。経済産業大臣がFIP制度の適用対象を定めるにあたっては調達価格等算定委員会の意見を聴き、これを尊重するものとされているため(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法第2条の2第4項)、上記意見に従ったFIP制度の適用が行われる可能性が高いと考えられる。

大江橋法律事務所

■筆者略歴

十河 遼介(そごう・りょうすけ)

2010年東京大学法学部卒業、2012年東京大学法科大学院修了、2013年~2016年西村あさひ法律事務所勤務、2020年The University of Texas at Austin School of Law卒業、2020年~2021年DLA Piper UK LLP (London)勤務。主な著書(共著を含む)として、『注釈金融商品取引法【改訂版】〔第1巻〕定義・情報開示規制』(金融財政事情研究会、2021年)、『金融機関の法務対策6000講 第VI巻 保証・取引先支援・事業再生編』(金融財政事情研究会、2022年)等。


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