[M&A戦略と法務]

2023年7月号 345号

(2023/06/09)

営利法人による医療法人/MS法人の「買収」における法的制約と実務

上﨑 貴史(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
  • A,B,EXコース
第1 はじめに

 近時のオンライン診療規制緩和の流れなどを受け、オンライン診療クリニックなどのかかわる中小規模のクリニック事業M&Aの動きが活発化している。クリニックは、医師個人のほか、医療法人や一般社団法人などの非営利法人が開設・運営する施設であり、株式会社等の営利法人が開設・運営することは認められていない。そのため、株式会社等が、医療機関を開設する医療法人を「買収」(と称することの正確性は措き、本稿では、後述第2の4⑴のとおり、医療法人の出資持分を取得し、かつ、指定する者を同法人の社員に就任させることを「医療法人の買収」と表現することとする)することで、医療機関の事業に一定の関与を行うケースがあるが、医療法人/医療機関の非営利性に係る法令上の大きな制約がある。

 また、医療法人そのものではなく、MS法人(メディカルサービス法人)と呼ばれる特定の医療法人の事業に密接な取引関係を有する営利法人(株式会社等)に対するM&A・投資事例も同様に活発化している。しかし、MS法人の買収スキームも、そのMS法人が依拠する医療法人/医療機関の非営利性に係る法的制約を正確に理解しなければ、適切なM&A・投資は行い得ない。

 そこで、本稿では、「営利法人による医療法人/MS法人の買収」をテーマに、その法的制約と手法を概説する。

第2 医療法人の買収

1.医療機関とは

 まず前提として、医療機関(病院又は診療所)とは、独立した法人ではなく、開設者が開設、運営する施設である。医療機関を開設するためには、原則として所轄の都道府県知事から開設許可を得る必要があるが(医療法7条1項等)、営利目的による医療機関の開設は認められていない(医療法7条7項。「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(平成24年3月30日医政総発0330第4号。以下「非営利性通知」という)。

 そのため、医療機関の開設主体は、医療法人、一般社団法人等の非営利法人や医師個人に限られ、株式会社等の営利法人は、自ら医療機関を開設、運営することはできない。

 そこで、医療機関事業経営に参画したい営利法人としては、医療機関を開設する医療法人をM&Aにより買収、支配することにより、間接的に医療機関の開設・運営に携わることが可能か、という発想が生まれる。

2.医療法人とは

 医療機関を開設・運営する法人の代表格が「医療法人」である。医療法人は、医療機関(病院・診療所)の開設・運営を目的とする医療法39条に基づく法人であり、剰余金の配当が禁止されるいわゆる非営利法人である(医療法54条)。

 平成19年4月1日(第5次医療法改正施行日)以降に設立された医療法人には「出資」が認められていないが、同年3月31日以前に設立された医療法人には「出資」が認められており、同法人に対して出資した者は同法人に対する「出資持分」を保有している(以下、当該医療法人を「出資持分あり型医療法人」ということがある)。後述のとおり、医療法人の買収は、売主が買主に「出資持分」を譲渡し、買主が売主にその対価を支払う、という方法を採用することが多い。

 また、医療法人には、「社団型」と「財団型」の2種類が存在するが(医療法39条等)、本稿では、「出資持分あり型」かつ「社団型」の医療法人について取り扱う。

3.医療法人の出資持分と経営権

⑴ 医療法人の「出資持分」と買収対価の支払い


■筆者プロフィール■

上﨑氏

上﨑 貴史(うえさき・たかふみ)
TMI総合法律事務所パートナー弁護士。ヘルスケア分野に係るレギュレーションを主たる専門とし、同分野にかかわるM&A(医療法人・病院事業M&Aを含む)、ベンチャー投資、新規ビジネス開発相談、アライアンス、不正調査、訴訟・紛争等の実務に従事。2011年~2013年厚生労働省勤務、2017年~2019年大手医療法人グループに駐在。2020年から一橋大学非常勤講師。

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