[M&A戦略と会計・税務・財務]

2023年7月号 345号

(2023/06/09)

第190回 デジタル経済に係る国際的課税制度の立法化と企業行動への影響

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 2023年5月19日から3日間の日程で開催されたG7広島サミットの成果文書であるG7広島首脳コミュニケ(仮訳)は、ウクライナ問題、軍縮・不拡散、等の緊急の課題への取組みを筆頭に、18のアジェンダ(注1)についてのコミットメントを盛り込んだ声明として採択されたものである。「世界経済・金融・持続可能な開発」のアジェンダの1つであるデジタル経済に係る国際的課税制度確立(以下、「デジタル課税制度」)に向けたコミットメントについて、以下のように2つの柱の解決策の進捗状況を確認した。

 「我々は、OECD/G20包摂的枠組みによる経済のグローバル化及びデジタル化に伴う課税上の課題に対応し、より安定的で公正な国際課税制度を確立する2つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けた我々の強い政治的コミットメントを再び強調する。我々は、第1の柱に関する多国間条約(MLC)の交渉における重要な進展を認識し、合意されたタイムライン内にMLCの署名ができる状態となるよう、交渉の迅速な完了に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は、第2の柱の実施に向けた国内法制の進展を歓迎する。我々は、途上国に対して、2つの柱の解決策の実施に係る支援の重要性を強調しつつ、持続可能な税収源を築くための税に関する能力強化に対する支援を更に提供する。」(G7広島首脳コミュニケ(2023年5月20日)<世界経済・金融・持続可能な開発>)

 デジタル課税制度確立に向けたコミットメントは、2018年6月G7 シャルルボワ(カナダ)・サミット以来、首脳コミュニケ、或いは財務大臣・中央銀行総裁会議声明において表明されている。G7広島首脳コミュニケにおける、第2の柱の実施に向けた国内法制の進展の認識は、OECD/G20包摂的枠組み(以下、「BEPS包摂的枠組み」)による中間報告書(「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に係る中間報告書」(Tax Challenges Arising from Digitalisation - Interim Report 2018))以降、5年に及ぶ作業の成果を表したものと言える。

 我が国では、令和5年度税制改正(以下、「令和5年度改正」)で、第2の柱のうちグローバル・ミニマム課税制度に対応した税制(所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule))が立法化された。本稿では、令和5年度改正とデジタル課税制度の立法化の今後の動向と、それらを踏まえた企業行動への影響を解説する。

2. OECDにおけるデジタル課税制度の検討の動向

 デジタル経済に係る国際的課税制度の検討は、OECD 租税委員会による「BEPS行動計画1最終報告書 デジタル経済の課税上の課題への対応」(Addressing the Tax Challenges of the Digital Economy, Action 1 - 2015 Final Report)の公表(2015年10月)から、BEPS包摂的枠組みの会合において行われてきたものである。2018 年3月に公表した「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に係る中間報告書」(Tax Challenges Arising from Digitalisation - Interim Report 2018)では、経済のデジタル化に伴う具体的な国際課税上の課題として、国際課税原則の現代化の必要性と軽課税国へのBEPSリスクの増大、デジタル経済により生み出された利益に対する課税権の配分をどのように行うべきかという問題が生じている点が指摘された(図表1参照)。このような指摘を踏まえて、2020年10月公表の、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題-青写真に関する報告書(第1・第2の柱)」(Tax Challenges Arising from Digitalisation – Report on Pillar One Blueprint, Tax Challenges Arising from Digitalisation – Report on Pillar Two Blueprint)では、それぞれの柱の課税制度の詳細な設計図が提示された。2021年7月、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対処するための2本の柱からなる解決策 に関する声明(Statement on the Two-Pillar Solution to Address the Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy)」がBEPS包摂的枠組みで採択され、BEPS包摂的枠組み加盟国のうち136カ国・地域が、2021年10月に合意した(図表2参照)。



■筆者プロフィール■

荒井 優美子

荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング