[寄稿]

2021年4月号 318号

(2021/03/15)

令和3年度税制改正とM&Aへの影響 ~実務における活用・留意点

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. 令和3年度の総合経済政策と税制改正

 2020年12月8日、政府は令和3年度の経済対策として、「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(以下、「総合経済対策」)を閣議決定し、12月21日に「令和3年度政府予算案」、及び「令和3年度税制改正の大綱」を閣議決定した。 総合経済政策では、新型コロナウイルス感染拡大防止と、国民の生活を守る「守りの視点」と、成長力強化につながる施策に資源を集中投下する「攻めの視点」を掲げる。「攻めの視点」の目的は「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」とされ、具体的には、①デジタル改革・グリーン社会の実現、②経済構造の転換・イノベーション等による生産性向上、③地域・社会・雇用における民需主導の好循環の実現のための施策が講じられる。 

 そしてその法的整備として、産業競争力強化法等の改正法案(「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」、以下、「改正産業競争力強化法等」)、及び令和3年度税制改正法案(「所得税法等の一部を改正する法律案」及び「地方税法等の一部を改正する法律案」、以下、「令和3年度税制改正」)が第204回国会で審議されている。 

図表1 改正産業競争力強化法等の概要

 今般の産業競争力強化法等の改正(産業競争力強化法、中小企業等経営強化法、その他の法律の改正を含む)は、「新たな日常」に向けた取組を先取りし、長期視点に立った企業の変革を後押しするため、ポストコロナにおける成長の源泉となる、①「グリーン社会」への転換、②「デジタル化」への対応、③「新たな日常」に向けた事業再構築、④中小企業の足腰強化、⑤「新たな日常」に向けた事業環境の整備等、の措置を講じる必要がある、との趣旨で見直しが行われたものである(図表1参照)。 この中で、企業のM&A活動に影響を与える制度としては、④中小企業の足腰強化のための中小企業経営資源集約化(M&A)税制の創設と、⑤「新たな日常」に向けた事業環境の整備に係る、事前認定不要の株式対価M&A税制の創設が考えられる。本稿では、以上の税制度について「改正産業競争力強化法等」及び「令和3年度税制改正」の内容に基づき、解説を行う。


2. 株式対価M&A税制の創設

(1) 現行の産業競争力強化法に基づく制度の見直し

 会社法の株式交付制度(以下、「株式交付制度」)が創設されたことを受け(2021年3月1日施行)、自社株式を対価として、対象会社株主(株式交付子会社の株主)から対象会社株式を取得するM&Aについて、対象会社株主の譲渡損益に対する課税を繰延べる措置が講じられる(図表2参照)。 現行の制度では、会社法の特例として、産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定(注1)を受けた法人が行う株式対価M&Aについてのみ、株主の課税繰延が認められている。 改正により、特別事業再編計画の事前認定の廃止や現金との混合対価も容認される等、より機動的で柔軟性に富んだ株式対価M&Aが株式交付制度の下で可能となる。

 諸外国では大規模なTOBによるM&Aを、株式を対価として行うことが一般的であり(注2)、株式対価M&A促進のための、株主の課税繰延措置については、従前より税制改正要望が出されていた(経団連の平成30年税制改正要望等)。「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(2018年2月14日公表)では、株式交付制度の導入が検討されていたが、暫定措置として平成30年度の税制改正及び産業競争力強化法の改正により、特別事業再編計画の認定を受けた事業者による株式対価M&Aに係る課税繰延措置が導入されたのである(税制措置は2021年3月31日までの時限立法)。

 現行の産業競争力強化法に基づく制度では、

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