[M&A戦略と法務]

2022年8月号 334号

(2022/07/11)

M&Aにおける労働組合対応

近藤 圭介(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
内野 寛信(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
第1 はじめに(M&Aにおける労働組合の影響)

 M&A(企業買収)の実施に際しては、買主候補者(買手)としては、対象会社を買収するに際して法的問題点があるのかを精査するデューディリジェンス(法務DD)を通常実施する。

 法務DDの過程で対象会社に労働組合の存在が確認された場合、労働組合と締結した労働協約により、就業規則又は労働契約で定まった労働条件が変更されている可能性もあるため、当該労働協約の確認が必要になる。さらには、労働協約や労使慣行において、M&Aの実施が労働組合からの事前同意事項又は事前協議事項となっている事例も見受けられ、その場合には、M&Aの実施の前に労働組合との交渉が求められることになる。
 近時の事例として2019年2月に伊藤忠商事がデサントに対して実施したTOBに対して、デサントの労働組合が当該TOBについて反対する声明文を発した事例は、記憶に新しいといえる。また、その他労働組合の反対によりM&Aの実施が見送られた例も多く実在する。

 このように、労働組合の存在により、M&Aの実行が影響されるケースも実際に存在するほか、近時、団体交渉に係る事項に関して合意の成立の見込みがない場合であっても、使用者において誠実交渉義務に違反すると判示した最高裁判例(最判令和4年3月18日裁判所ウェブサイト、(注1))も出されたところであり、買手としては、M&Aを成功に導くために、対象会社に対する労働組合の影響力を認識する必要がある。

 M&Aを実施する場合における労働組合対応に係る論点は多岐にわたるが、本稿においては、M&Aの実施に際して労働組合との間の協議・同意が求められる場合の対応(第2)、対象会社の労働組合から買手に対して団体交渉の申入れがなされた場合の対応(第3)の2点に焦点を当てたい。

第2 労働協約等において、M&Aの実施に関し労働組合との間で事前同意条項・事前協議条項が存在する場合の対応

1. はじめに

 法務DDの過程で、対象会社において労働組合の存在が明らかとなった場合、対象会社と当該労働組合との間の労働協約の開示を求めたり、労使慣行の存在をQA等で確認したりすることとなるが、労働協約(又は労使慣行)において、例えば、「会社は、事業の縮小・閉鎖・合併・買収を行う場合、事前に所属組合と協議し、合意の上実施する。」という内容の労働協約(以下「本件労働協約」という)があった場合、買手は対象会社をして当該労働組合に対してどのように対応すべきかについて、本件労働協約の内容に違反してM&Aを実施した場合の当該M&Aの効力に与え得る影響を踏まえつつ、検討することになる。

 上記の法的問題点につき、M&Aの類型について、労働契約承継法が別途適用となる会社分割で実施する場合と、それ以外の手法(会社分割を除く組織再編及び株式取得型)に分けて、検討する。

2. 会社分割以外のM&Aの場合

(1) 本件労働協約を踏まえた労働組合への対応

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