3.日清紡ホールディングスの動向
図表1は、前号(
2021年9月号)に含めた一覧であり、事業構造の転換に向けて積極的にM&Aを行ってきた老舗の繊維会社の例である。前号で触れた日本毛織に続き、今回は日清紡ホールディングス(以下「日清紡HD」)の動向について執筆した。
(再掲図表1)各社の概要企業名 (上場市場) | 設立年 | 売上高 (前期実績) | 特色 |
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日本毛織 (東証1部) | 1896年 (明治29年) | 1049億円 | 祖業は羊毛紡績。事業は衣料繊維の他、産業機材、ショッピングセンターやスポーツ施設運営、Eコマースなど |
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日清紡HD (東証1部) | 1907年 (明治40年) | 4571億円 | 祖業は綿紡績。M&Aでエレクトロニクスが中核事業となり、自動車用ブレーキ摩擦材でも世界トップクラス |
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東洋紡 (東証1部) | 1882年 (明治15年) | 3374億円 | 祖業は綿紡績。フィルム・機能樹脂、産業マテリアル、ヘルスケアなどへ事業領域を拡大 |
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倉敷紡績 (東証1部) | 1888年 (明治21年) | 1222億円 | 祖業は綿紡績。織布や高機能繊維製品、また、自動車内装材や機能フィルムといった化成品事業などを展開 |
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(注1)東洋紡は1914年に大阪紡績と三重紡績との合併により設立されており、図表1では大阪紡績の設立年を含めた
(注2)各種資料より作成
(1)現在の事業構成と各事業の概要
日清紡HDの前身である日清紡績は、1907年、高級綿糸の大量生産を担う紡績会社として設立された。しかしながら、同社の現在の事業別売上構成比をみると、無線・通信、マイクロデバイスといったエレクトロニクス事業や自動車ブレーキ用摩擦材を提供するブレーキ事業が合計で約7割を占めている(図表3参照)。
(図表3)事業別売上高(2020年12月期)事業名 | 事業概要 | 売上高 (億円) | 売上 構成比 |
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無線・通信 | 無線通信機器などの製造販売 | 1443 | 31.6% |
マイクロデバイス | 電子部品などの製造販売 | 611 | 13.4% |
ブレーキ | 自動車ブレーキ用摩擦材などの製造販売 | 1148 | 25.1% |
精密機器 | メカトロニクス製品の製造販売、精密部品加工、成形品の製造販売など | 514 | 11.3% |
繊維 | 綿糸布、化合繊糸布、スパンデックス製品、衣料品などの製造販売 | 340 | 7.4% |
不動産 | ビル、ショッピングセンターなどの賃貸や不動産分譲など | 203 | 4.4% |
化学品 | 硬質ウレタンフォーム、カーボン製品、高機能化学品などの製造販売 | 96 | 2.1% |
その他 | 食品、産業資材等の商社機能等 | 215 | 4.7% |
連結売上高 | - | 4571 | 100.0% |
(注)有価証券報告書より作成
各事業の概要をみていくと、無線・通信事業では気象レーダーや災害が起きた際に衛星や地上系無線を通して災害関連のデータを収集し情報を提供する防災システム、また、人工衛星搭載機器や、住宅等向けの各種機器へ組み込まれる小電力無線システムなどを提供している。
マイクロデバイス事業では半導体や電子デバイスを製造している。具体的には、カーオーディオ向けICや、自動車の基本性能を支えるパワーコントロールユニットといった車載用IC、産業用ロボットの動作精度を向上させる可動部の動きを検出するセンサと信号処理回路用のデバイスなどを提供している。
ブレーキ事業では自動車ブレーキ用の摩擦材を提供している。例えば、ディスクブレーキというブレーキでは、車輪と一体化したディスクローター(円盤状の金属板)を2枚の摩擦材で強く挟むことで車輪の回転を止める。同社の摩擦材は、軽自動車や普通乗用車、スポーツカー、大型トラック・バスなどのブレーキ装置で使用され、また、全国の整備工場やディーラーでも整備用、車検用として使用されている。
精密機器事業では成形品、精密部品、システム機を製造している。具体的には、カーエアコンやラジエータ向け、家庭用・業務用エアコン向けのファンや、自動車用EBS(Electronic Brake System)バルブブロック、そして、自動車部品向けのバランス修正機、航空機向けの剣山治具などを提供している(各製品の概要については文末※1参照)。
この他、繊維事業では衣料品向けの生地や化粧雑貨及び医療衛生材料向けの不織布の製造、不動産事業では工場跡地などに建設した商業施設、マンション等の提供、また、化学品事業では車載用向け燃料電池用のカーボンセパレータ(文末※2参照)、建築物や車両などで使用される断熱材料などを製造している。
(2)事業の多角化に向け積極的にM&Aを展開