[M&Aスクランブル]

(2021/12/13)

東芝の事業分割で注目を浴びる複合企業のスピンオフ

~日本企業の「事業再編」に活性化の兆しも

村松 健(SBI金融経済研究所 事務局次長)
  • A,B,C,EXコース
海外でのスピンオフの歴史

 東芝は11月12日、日本の巨大上場企業としては初めて、スピンオフを用いて会社を分割することを発表した。東芝が原子力発電などの「インフラサービス事業」、ハードディスクや半導体などの「デバイス事業」を展開する2つの会社を新たに設立し、2023年度下期の上場を目指す。

 こうした中、にわかに「スピンオフ(Spin-off)」が注目されている。スピンオフとは、自社内の特定の事業部門または子会社を切り出し独立させるM&Aの一手法である。独立した会社の株式が、元の会社の株主に交付されることが特徴だ。資本市場に介し、事業部門を完全に独立させる手法であると捉えることができる。

 海外では、複合企業の事業構造改革の手段として、スピンオフが積極的に用いられてきた経緯がある。日本では2017年の税制改正でスピンオフが可能となったが、実績は1件に止まる。東芝の件を機に、日本でもスピンオフが事業再編手法として注目される可能性がある。

 海外では、既に多くの企業がスピンオフを活用し事業再編を行っている。イーベイによるペイパルのスピンオフや、ヒューレット・パッカード、バイエル、デュポンといった錚々たる大企業がスピンオフを活用した経緯がある。最近ではGEがスピンオフにより会社を航空、エネルギー、ヘルスケアに3分割することを公表している。

 海外でスピンオフが活発に行われる底流には、成熟した資本市場と「株主の論理」が存在する。多角経営を行う企業は単独で事業を行う場合に比べて非効率であり、投資家の理解が得にくく、企業価値を毀損する場合がある、との考え方だ。このような株主の論理を体現し、先頭に立って行動しているのがアクティビストである。

イーベイのペイパル分離

 実際、海外のスピンオフ案件にはアクティビストが関与するケースが多い。具体的な事例を見てみたい。2014年にインターネット競売大手であるイーベイは、当時傘下であったペイパルのスピンオフを発表した。イーベイは、2002年に電子決済サービスを行うペイパルを買収したが、買収時点でのペイパルの売上高は1億ドルにすぎなかった。「競売と決済のシナジー」に着目した買収であり、その意図は首肯されよう。...

■ 筆者履歴

松村 健

村松 健(むらまつ・けん)
1996年慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。富山支店、業務部、証券部、広島営業部、みずほ証券等で勤務。2021年11月より現職。著書に、『銀行実務詳説 証券』、『NISAではじめる「負けない投資」の教科書』、『中国債券取引の実務』(全て共著)がある。論文寄稿、セミナー等多数。日本財務管理学会、日本格付け学会所属。

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