[マールレポート ~企業ケーススタディ~]

2022年10月号 336号

(2022/09/09)

「建設業の変革」を目的としたM&Aで、早期の株式上場を目指すTAKUMINOホールディングス

  • A,B,EXコース
左から小野晃良氏、香川慶人氏

小野晃良 代表取締役グループCEO(左)と香川慶人 取締役グループCFO

 2019年2月に持株会社として設立されたTAKUMINOホールディングス(東京都千代田区、小野晃良社長)は小野工業所(福島県福島市、小野雅亮社長)を中核企業とし、これまで地方の建設関連企業11社を買収してきた(うち事業譲受が2社)。

 現在、グループはTAKUMINOホールディングス含め10社で、従業員数は556人に上る。2021年6月期の売上高は159億円で(図表1)、2025年6月期には242億円の連結売上高を目指す計画にしている。

 国土交通省によれば、2030年には技能労働者が60万人ほど不足することが見込まれている。施工管理や設計をする技術者も7万6000人不足する。小野社長は、従業員を確保できずに縮小を余儀なくされる建設関連企業が相当数に上り、それが業界再編のトリガーになると見ており、今後も積極的なM&Aで業容を拡大していく方針だ。

 TAKUMINOホールディングスは現在、株式上場に向けた準備を行っており、早期の上場を目指している。小野晃良社長と香川慶人グループCFOに今後の取り組みや経営戦略を聞いた。
震災後の苦労を機にM&Aを開始

―― TAKUMINOグループの概要を教えてください。

小野 「中核企業の小野工業所は福島市を地盤とする1889年創業の総合建設会社です。M&Aを繰り返すうちに連結の売上高がどんどん増え、グループ全体の管理機能を切り出す形でTAKUMINOホールディングスを設立しました。建設業における『2つの不足』、すなわち施工管理技術者・技能労働者の不足、地域中小建設事業者の後継者不足を解消し、業界構造を革新しようとしています」

―― 小野社長のバックグラウンドは。

小野 「三井建設に入社後、父が経営する小野工業所に入社しました。2011年の東日本大震災の時に経験したのは職人が全くつかまらず、外注もできないという状況でした。自前の供給力を持つしかないと考え、2015年からM&Aを始めました」

<図表1>連結売上高・営業利益の推移

建設業が直面する課題

―― 建設業界特有の現状・課題を教えてください。

小野 「業界全体で年間60兆円ほどの建設投資額がありますが、外注比率が高く、元請けの建設会社であれば外注比率が45%~60%程度あります。具体的にはスーパーゼネコンは職人をほとんど雇用していませんし、中堅以上のゼネコンはほぼ供給力を自前で持っていません。外注してモノをつくっていく業態なので、外注比率が高いということは社外に流出している利益も大きいということです。そこを垂直統合することによって建設業の競争力を高められると考えています」

―― どのようなグループを目指していますか。

小野 「持続可能な社会基盤をつくるというのがグループの理念です。社会資本・民間資本を維持・更新する時期なのになかなかそれを担う人材がいません。日本の建設業が持続可能性を有しているかどうかと言えば、非常に厳しい答えになるでしょう。そこを解決していくことを大きな目標にしています。

 建設業は中小零細企業が非常に多く経営水準も高いとは言えず、他の産業に比べて寡占が進んでいません。コンビニ業界は大手3系列のシェアが高く、かつて30社くらいあった自動車メーカーもいまや5グループ程度です。建設業が抱える重層構造をM&Aを通じて解決することを目指しています」

4つの戦略を使い分け

―― 基本的なM&A戦略について教えてください。

小野 「教科書的ではありますが、M&Aは大きく4つに分類されます。1つ目はサプライチェーンの川上・川下側に行くための垂直統合型のM&A、2つ目は営業エリアを広げるための水平統合型のM&A、3つ目は周辺の技術・サービスを得るための周辺領域獲得型のM&A、そして4つ目が多角化を図るためのコングロマリット型のM&Aで、我々はこの4つを使い分けています」

―― 過去にどのようなM&Aに取り組んできましたか。

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