[マールレポート ~企業ケーススタディ~]

2024年12月号 362号

(2024/11/12)

【ブラックストーンが描く】電子コミック「めちゃコミック」運営のインフォコムの成長加速戦略とは

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坂本篤彦 ブラックストーン・グループ・ジャパン 代表取締役 シニアマネージングディレクター プライベート・エクイティ日本代表(左)と山口裕也 同 プリンシパル

坂本篤彦 ブラックストーン・グループ・ジャパン 代表取締役 シニアマネージングディレクター プライベート・エクイティ日本代表(左)と山口裕也 同 プリンシパル

ブラックストーンによる日本での最大買収案件

 「めちゃコミック」などの電子コミック配信サービスを運営するアムタスの親会社であるインフォコムに対するブラックストーンのTOBが、2024年7月31日に終了した。TOBによる買付価格は1株6060円で総額1413億円。インフォコムの57.87%を保有する帝人は、TOB成立後にインフォコムが実施する自社株買いに応じて1343億円で全株を売却。インフォコム株は2024年10月16日をもって上場廃止となった。買収総額は2757億円で、ブラックストーンによる日本での買収案件では最大となった。

 インフォコムは、1983年に日商岩井(現 双日)の情報システム部門が分離独立する形で、日商岩井の子会社として設立。その後、2001年に帝人の子会社である帝人システムテクノロジーと合併した。翌2002年3月に日本証券業協会の店頭登録銘柄に登録、2004年12月にはジャスダック証券取引所に株式を上場。その後、大阪証券取引所ヘラクレス市場への上場を経て、2022年4月に東京証券取引所プライム市場に移行した。

 インフォコムは、一般消費者向けにスマートフォン向けの電子コミック事業を展開するほか、企業や医療機関、教育機関などに、情報システムの企画・開発・運用・管理などのITサービスを提供している。

 2023年の電子コミック市場は4830億円で、コミック市場全体の69.6%を占める。「電子コミックストア」事業は、米Amazon.comの「Kindleストア」、LINE Digital Frontierの傘下の「LINEマンガ」と「ebookjapan」、カカオピッコマの「ピッコマ」、NTTソルマーレが展開する「コミックシーモア」のほか、集英社の「少年ジャンプ+」や講談社の「マガポケ」、小学館の「マンガワン」など大手出版社も電子コミックアプリを展開してしのぎを削っている。そんな中で、日商岩井の子会社と帝人システムテクノロジーとの合併によって誕生したインフォコムは異色の存在と言える。

 「めちゃコミック」は2006年にスタートした国内最大級の電子書籍・漫画ストア。インフォコムの2024年3月期の売上高は約844億5000万円。事業別売上高のうち電子コミックは571億2000万円、ITサービスが243憶1000万円で、営業利益97億8400万円のうち、電子コミック関連が75億4900万円と大半を占めている。

 一方、親会社の帝人は業績悪化にあえいでいた。2024年3月期通期連結決算は、売上高1兆327億7300万円(前年同期比1.4%増)、営業利益135億4200万円(同5.3%増)、経常利益155億6400万円(同71.0%増)、親会社株主に帰属する純利益105億9900万円(前年同期は176億9500万円の赤字)となった。本業の稼ぎである営業利益は、インフォコムの97億円を差し引くと、帝人の稼ぎはわずか38億円という状況。内川哲茂社長は、業績が低迷している複合成形材料事業、アラミド事業、ヘルスケア事業を課題事業と位置付け、収益性改善に向けた構造改革に取り組んでいる。こうした中、帝人は事業ポートフォリオの見直しを検討、シナジー効果を見出せないインフォコム株式の売却を決断した。“虎の子”とも言えるインフォコムの売却で得た資金1050億円は構造改革に投じられる。

 ブラックストーンは世界最大級のオルタナティブ資産運用会社。これまでの運用資産は1兆ドルを超える。2007年に東京オフィスを開設し、2018年から日本企業への投資を本格的に開始した。日本におけるプライベート・エクイティ部門の投資は、2019年に鎮痛剤「カロナール」を手がけるあゆみ製薬の買収を皮切りに、2021年に武田薬品工業からビタミン剤「アリナミン」や総合感冒薬「ベンザ」などの一般医薬品を製造する子会社・武田コンシューマーヘルスケア(現アリナミン製薬)を取得。そのほか、2024年にソニーグループ傘下でオンライン決済代行サービスのソニーペイメントサービスの株式80%を取得して子会社化、さらにSMO(治験施設支援機関)事業とCRO(医薬品開発業務受託機関)事業を手がけるアイロムグループのMBOにも参画する。

 インフォコムの主力事業である電子コミック事業の成長戦略について、坂本篤彦 ブラックストーン・グループ・ジャパン 代表取締役 シニアマネージングディレクター プライベート・エクイティ日本代表と山口裕也 プリンシパルに聞いた。

<インタビュー>
 グローバルな知見を活かし、4つの取り組みで電子コミック事業の成長を加速

 坂本 篤彦(ブラックストーン・グループ・ジャパン 代表取締役 シニアマネージングディレクター プライベート・エクイティ日本代表)
 山口 裕也(同 プリンシパル)

<目次>
  • デジタルコンテンツ分野の投資テーマとして注目
  • コミック市場の概況
  • インフォコムの強み
  • ブラックストーンのIP・デジタルサービス事業に対する知見
  • 成長加速戦略
  • クリエーターの育成も
  • 3号ファンドの投資スタンスとスタートアップ投資

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