[日本M&A市場 大変革の時代]

(2024/07/25)

第4回 PEファンドの台頭とM&A戦略における意義

大原 崇(ベイン・アンド・カンパニー パートナー)
大和 梓(同 パートナー)
軍司 夏樹(同 シニア マネージャー)
  • A,B,EXコース
ポイント
〇日本のPE市場はM&A市場の3割を占めるまでに成長
〇M&Aを考える事業会社も、M&A市場の重要プレイヤーであるPEファンドとの付き合い方、それらのもたらす買収・売却機会の活用法を把握する必要がある
〇上場企業に対する短期的な業績目標達成への圧力が強まる中、PEと協業して非上場化をすることで、中長期的な成長施策の実行を目指す企業も増加している
〇日本で活動するPEの数は10年前から倍増し、投資スタイルも多様化してきており、日本企業のM&A戦略・資本政策の選択肢が増えている

 過去5年、日本におけるPEファンドの存在感が急激に増してきてきたことは、読者も感じられていることだろう。東芝や日立金属など日本を代表する企業の買収のニュースは記憶に新しい。実際、PEによる買収(100万ドル以上)は過去5年で61件(2018年)から125件(2023年)と倍増した。案件当たりの金額も増加しており、同時期に投資総額は約4000億円から約5.9兆円と15倍近く成長をしている。

国内のPE市場は中長期的に成長傾向。特に過去5年で急成長し、2023年に過去最高額のディールバリュー総額5.9兆円を達成

 背景の1つは、経済産業省の各種指針や、前回論じた「もの言う株主」の活動活発化に伴うコーポレートガバナンスの強化だ。事業会社の事業ポートフォリオの見直し・非コア事業のカーブアウトに対する姿勢が積極化し、PEファンドの買収対象となる会社が市場に出てきやすくなっている。

 グローバルに活動するPEファンドにとって、日本はリターンが狙いやすい市場と見られており、ファンド側が積極的に投資を進めていることがもう1つの要因だ。まず、金利が低い水準で保たれており、他地域と比較して高いリターンが期待できることが大きい。また、自社の強みが活用しきれていなかったり(例・ユニークな自社技術の海外展開)、業務上の非効率(例・デジタル化の遅れ)といった、PEファンドの支援を通じて事業価値を大きく伸ばせる会社が多いこともファンドが注目するポイントだ。


■筆者プロフィール■

大原氏

大原 崇(おおはら・たかし)
ベイン・アンド・カンパニー パートナー
15年以上にわたり、電機・電子機器メーカー、半導体、自動車、運輸等の幅広い業界の国内外のクライアントに対するコンサルティングに従事。全社ポートフォリオ戦略、成長戦略、コスト構造改革、戦略立案から買収後の統合支援までの国内外のM&A支援等、多岐にわたるテーマのプロジェクトを手がける。ベイン東京オフィスにおけるM&Aプラクティスリーダー。
東京大学法学部卒業。パソナ、外資系コンサルティングファームを経てベインに入社。

大和氏

大和 梓(おおわ・あずさ)
ベイン・アンド・カンパニー パートナー
日本・アメリカ・オーストラリアにて、消費財、電子・機械部品、保険等多岐にわたる業界において成長戦略、M&A・提携戦略、戦略実行支援等のプロジェクトに従事。 デューデリジェンス・ポートフォリオワークを中心に、ファンド向けのプロジェクトを多数手掛ける。ベイン東京ソーシャルインパクトチームのリーダー。
国際基督教大学教養学部卒業、ハーバード大学大学院修士課程修了後、ベインに入社。 ペンシルバニア大学ウォートンスクールにて経営学修士課程(MBA)、同大学ローダーインスティチュートにて国際学・中国語専攻修士課程を修了。

軍司氏

軍司 夏樹(ぐんじ・なつき)
ベイン・アンド・カンパニー シニア マネージャー
5年以上にわたり、日本、ヨーロッパ市場の消費財、製造業、ヘルスケア、小売等、多岐にわたる業界において、成長戦略、M&A、提携戦略等のプロジェクトに従事。特にプライベートエクイティ企業や金融投資会社向けのデューデリジェンスや価値創出等、ディールライフサイクル全般に関するコンサルティングにおいて豊富な経験を有する。
仏サン=テティエンヌ国立高等鉱業学校修了、英インペリアル・カレッジ・ロンドン修了後、ベインに入社。

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