[M&Aフォーラム賞]

2015年11月号 253号

(2015/10/15)

第9回 M&Aフォーラム賞が決定――M&Aフォーラム賞『RECOF賞』などに3作品を選定

左から服部紘実氏(奨励賞、長島・大野・常松法律事務所 弁護士)、宮﨑隆氏(奨励賞、長島・大野・常松法律事務所 弁護士) 、鈴木健太郎氏(奨励賞、柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)、大久保涼氏(奨励賞、長島・大野・常松法律事務所 弁護士)、 落合誠一会長(中央大学法科大学院教授、東京大学名誉教授)、岩田選考委員長(公益社団法人日本経済研究センター代表 理事・理事長)、松本茂氏(SCS Global 取締役 マネージングディレクター、同志社大学大学院ビジネス研究科 准教授)、 石塚明人氏(青山学院大学 大学院法学研究科 博士後期課程3年)
 
【受賞作品】

◆M&Aフォーラム賞正賞 『RECOF賞』【書籍】
『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』(東洋経済新報社刊)
松本 茂(SCS Global 取締役 マネージングディレクター、同志社大学大学院ビジネス研究科 准教授)

◆M&Aフォーラム賞奨励賞『RECOF奨励賞』【書籍】
『買収ファイナンスの法務』(中央経済社刊)
大久保涼(編著:長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
鈴木健太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)
宮﨑 隆(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
服部紘実(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)


◆M&Aフォーラム賞選考委員会特別賞『RECOF特別賞』【論文】
『株式買取価格決定における市場株価を参照した「シナジー分配価格」を無裁定価格で補正するための数理分析』(『ソフトロー研究』<東京大学大学院法学政治学研究科ビジネスロー・比較法政研究センター 編集・発行>)
石塚明人(青山学院大学 大学院法学研究科 博士後期課程3年)

11作品が応募

  M&Aフォーラム賞選考委員会は、2014年度(平成26年度)「第9回M&Aフォーラム賞」に3作品を選定し、9月30日表彰式が行われた。

「M&Aフォーラム」は、2005年10月の内閣府経済社会総合研究所の「M&A研究会」による中間報告において民と官との連携ができる民間ベースのフォーラムが提唱されたことを受けて05年12月に設立され、今年で10周年を迎える。

  理論的、実証的及び実務的な視点から、進歩、変化するM&A事情の研究・調査を行い、今後のわが国におけるM&Aのあり方について提言を行うとともに、主に企業人を対象にした「M&A人材育成塾」の運営等の活動を通じて、M&Aの普及・啓発、人材や市場の育成に資することを目的としており、さまざまな関係分野の有識者、実務専門家、企業関係者が参加する場となっている。

「M&Aフォーラム賞」は、2000年度に「M&Aに関する社会科学的観点からの研究論文の執筆で顕著な業績をあげた学生・院生を顕彰する懸賞論文制度」としてレコフが創設した『RECOF賞』が前身で、M&Aフォーラムからの強い要請もあり、学識経験者、行政担当者、M&A専門家、企業関係者(実業界)ならびに大学院、大学、各種専門学校を含めた学生にいたるまで幅広い分野に対象を広げ、06年にM&Aフォーラム賞『RECOF賞』として引き継がれた。

  第9回を迎えた今回は、法律、経営、経済、金融、M&A実務などM&Aに関わる様々な分野・問題を取り上げた11の書籍・論文の応募があった。

  選考委員長の岩田一政氏(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)のもと、大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)、西山茂氏(早稲田大学ビジネススクール教授)、丹羽昇一氏(レコフデータ執行役員)の3人の委員によって、

①作品が創造性に富んでいること。
②実用性・実務への応用可能性が高いこと。
③問題点を先取りし、その解決の糸口を論じたもの。
④M&Aの啓蒙に資するもので、業界全体への影響力が高いと判断されるもの。
⑤理論的・実証的な分析を行っているもの。

  という観点で審査が行われた。

岩田選考委員長による講評

岩田氏  岩田選考委員長は、「最終選考となる2次審査では、M&Aの成功・失敗、買収ファイナンス、企業価値評価、M&Aにおける『シナジー分配価格』、組織再編に関連した租税回避行動に対する税務否認など、多様なテーマについてまとめられた秀作の中での評価となりました。いずれの作品も甲乙つけがたい力作であり、また、異なる分野の優れた業績を比較することは、容易ではありませんでした」として、次のように講評を述べた。

「松本茂著『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』は、過去に実施された日本企業によるM&Aは、成功例よりも失敗例が多く、何故、失敗例が多かったのか、その原因を掘り下げて検討した著作です。1985年から2001年にかけて実施された116件のM&Aのうち、売却・撤退に至ったM&Aは51件、金額は2.8兆円とされています。他方で、本書が明確に成功したとしている例は9件に過ぎません。本書では、失敗例を検討し、3つの教訓を引き出しています。まず、第1に、海外M&Aの通説に踊らされていないか、第2に、短期的な業績や株価効果に固執していないか、第3に、事業領域の修正を躊躇していないか、という3点に留意すべきだと主張しています。

  M&Aの成否を握るのは、企業がどの程度、短期的な収益拡大にとらわれることなく、中長期の視点にたって利益成長実現に向けて努力を継続しているかにかかっていることを説得的に論じています。また、デュー・ディリジェンスやポスト・マージャー・インテグレーションは失敗しないための必要条件に過ぎないこと、ローカルチャンピオンになる見込みのないディールは見送ること、現地マネジメント任せにせず経営者自身が責任をもって、10年の時間軸で事業を管理すること、また、IBMの例に見られるように、規模拡大を目指すことなく、事業領域を常に修正することが求められると指摘しています。

  読みやすく、かつ失敗の本質が要領よくまとめられていて、日本企業により実施されたM&Aが、実際にどの位成功したのか実証的に明らかにしています。また、失敗した例について、失敗の原因がどこにあったかを具体的に究明した書はこれまでありませんでした。これまでのM&Aに関する業績のなかで、空白となっていた部分を埋めた業績を高く評価するところです。

  審査委員の満場一致で、『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』をM&Aフォーラム賞の正賞とすることで決定しました。

  大久保涼編著『買収ファイナンスの法務』は、買収ファイナンスの実務を要領よく整理し、かゆいところに手が届くように解説している実務書で、本書1冊をよく読めば、日本における買収ファイナンスの概要と現状を知ることが出来ます。シンジケーション、シニアローン、メザニン投資(劣後ローン、優先株式、新株予約権)、担保、保障といった基礎的な事項からクロスボーダーの買収ファイナンスを巡る問題までをカバーしています。

  本書を読みながら、第6回M&Aフォーラム賞正賞受賞作品『ステークホルダー 小説事業 再生への途』で叙述されたアメリカの実情を思い出し、日本も法務の上でも、次第にアメリカの水準にキャッチアップしつつあることを実感できました。

  審査委員の満場一致で、『買収ファイナンスの法務』をM&Aフォーラム賞の奨励賞を授与することで決定しました。

  次に、M&Aフォーラム賞の前身であるレコフ賞を受け継ぎ、学生論文を対象として表彰を行ってきましたM&Aフォーラム賞選考委員会特別賞について、授賞の議論・検討を行いました。石塚明人著『株式買取価格決定における市場株価を参照した「シナジー分配価格」を無裁定取引価格で補正するための数理分析』を全会一致で授与の決定をしました。

  本論文は、M&Aにおける『シナジー分配価格』を結合比率に関する無裁定取引価格の概念で補正すべきであると主張しています。本論文では、テクモ・コーエー社の合併に関する判決例に無裁定価格の概念を適用し、具体的に計算例を示し、シナジー価格を補正する必要があることを丁寧に論証しています。現実の市場株価比率は、裁定取引が可能であった場合と比べて、2標準偏差を超える乖離が観察されることに鑑み、シナジー分配価格を補正すべきだと論じています。現実の合併事例においては、シナジー分配価格よりも、適切なシナジー分配のあり方が問われることが多いとしても、テクモ・コーエーと類似した合併の場合には、適用が可能であると考えられます。日本においては、アメリカと比べて『法と経済学』の分野が未発達であり、その意味で、本論文は、貴重な試みといえます。商法とファイナンス理論の架け橋となる本論文を評価したいと考えます」

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