[藤原裕之の金融・経済レポート]

(2017/06/07)

二極化が鮮明となる地方銀行 ~ マイナス金利だけが原因ではない

 藤原 裕之((一社)日本リサーチ総合研究所 主任研究員)
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続く地銀の業績悪化 ~原因はマイナス金利だけ?

 地方銀行の業績悪化が続いている。上場地銀82行(持ち株会社含む)の2017年3月期の連結純利益は前期と比べて11%減少、合計1兆632億円と厳しい結果となった。純利益が前期比でマイナスとなるのは、リーマンショックの影響を受けた09年3月以来8年ぶりである。

 新聞報道等では今回の厳しい業績悪化の原因をマイナス金利政策に求める論調が目立つ。確かに17年3月期は日銀が16年2月に導入したマイナス金利政策の影響がフルに効いた初の決算である。貸出金利が低下した上、保険会社が貯蓄性の高い一部商品の販売を停止したことで保険商品の銀行窓販が急減するなど、17年3月期はマイナス金利が業績の押し下げ要因となったのは間違いない。

 もっとも、今の地銀の業績悪化をマイナス金利だけに求めるのは問題の本質を見誤ることになる。リスクには経済全体が被る分散不可能なシステマティック・リスクと個々の経済主体が固有に持つ個別リスク(イディオシンクラティック・リスク)の2種類がある。マイナス金利政策や人口減少・少子高齢化のような環境変化はシステマティック・リスクに相当するが、これはどの金融機関も一応に負うリスクである。問題の本質がシステマティック・リスクだけにあるのであれば、M&Aなどで財務基盤を強化するのも一策であろう。

 これに対し、問題の本質が個別リスクにあるのであれば、単に財務基盤を強化しても意味がない。自行内にある問題を解決しない限り個別リスクは減らないからである。地銀の個別リスクとして特に深刻なのは、地域金融を担うものとしての価値源泉が低下していることである。担保・保証に過度に依存したために、地元企業の将来性や事業性を見極めサポートし、地域経済を支え蘇らせる能力と実行力が低下していることが問題の本質である。地銀経営を評価するには個別リスクに各行がどう向き合っているかを点検する必要がある。

収益力の二極化が進む

 周知のとおり、地元経済の地盤沈下やマイナス金利政策によって地銀の収益環境は悪化傾向にある。過去の融資が低金利の新規貸出に置き換わることで地銀の貸出金利回りは年々低下傾向にあり、それに伴って総資金利ざやも縮小している(図表1)。

 しかし個々の地銀の状況をみると、総資金利ざやは各行によってバラツキ傾向が大きくなっている。総資金利ざやの平均値からのかい離率を分布にし、年度別に比較してみると、地銀間の利ざやのバラツキ傾向は年々強まっているのがわかる(図表2)。各行とも利ざやの絶対水準は低下しているが、低下幅の小さい銀行と大きい銀行で二極化が鮮明になっているということである。

図表1 地方銀行の総資金利ざやの推移

図表2 地銀の総資金利ざやのばらつき(平均からのかい離率)


二極化の原因 ~リレバンへの取り組みの違い

 では、利ざやの低下幅の小さい銀行と大きい銀行の違いはどこにあるのだろうか。営業地域における競争環境や貸出ポートフォリオの違いに起因する面も大きいかもしれない。しかし個別にみていくと、利ざやの低下幅が比較的小さい地銀の中には、ニッチなマーケットを見出し、相応の金利水準で融資を実行している銀行や、長期的な取引関係の追求や営業支援などのサービスを付加することにより金利競争に陥らない営業を可能としている先も認められる。つまり、担保や保証など財務情報に依存するのではなく、顧客企業の事業内容や成長性を分析・評価することで、必要な融資・アドバイスを実行する、いわゆるリレーションシップ・バンキング(以下、リレバン)への取り組みを強化している。

 群馬県に本店を置く東和銀行は、『靴底を減らす活動』『雨でも傘をさし続ける銀行』をモットーにリレバンの強化を目指している。地域企業との連携を深めるために組織された「東和新生会」は取引先同士の異業種交流の場となっている。海外進出支援についてもJICA、JBICなど政府金融機関と連携することできめ細かな現地情報の提供やアドバイスを行っている。地銀の08年度と15年度の資金運用利回りの変化をみた場合、同行はスルガ銀行に次いで低下幅が小さい。多くの地銀は低金利の貸し出しこそ事業者が求めているものだと思い込んでいる傾向がある。しかし実際に企業の声を聞くと、企業側が銀行に求めるのは金利ではなく事業内容への理解であり、経営課題の解決と成長に向けて共に歩んでほしいと願っている(図表3)。雨でも傘をさし続ける同行の貸出金利には、企業の経営課題に寄り添って課題解決を進めてくれることに対する信用分がオンされているため、他行が低金利で参入しても脅威にはならない。

図表3 企業がメインバンクに求めるもの

なぜリレバンは進まないのか ~金融検査マニュアルの呪縛

 東和銀行のようにリレバンに真摯に取り組む地銀はマイナス金利による貸出金利の低下圧力を最小限に抑えている。しかし同行のような事例はごくわずかである。リレバンへの取り組みが遅れている多くの地銀は…

 


■藤原 裕之(ふじわら ひろゆき)
略歴:
弘前大学人文学部経済学科卒。国際投信委託株式会社(現 三菱UFJ国際投信株式会社)、ベリング・ポイント株式会社、PwCアドバイザリー株式会社を経て、2008年10月より一般社団法人 日本リサーチ総合研究所 主任研究員。専門は、リスクマネジメント、企業金融、消費分析、等。日本リアルオプション学会所属。

※詳しい経歴・実績はこちら

 

 

 

 

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