M&A専門誌マール

2017年3月号 269号 : 対談・座談会

[座談会] M&Aにおける第三者委員会の現状と課題 有料記事です

 岡 俊子(株式会社岡&カンパニー 代表取締役)
 白井 正和(同志社大学法学部 准教授)
 仁科 秀隆(中村・角田・松本法律事務所 弁護士)(司会)(五十音順)

左から白井 正和氏、岡 俊子氏、仁科 秀隆氏

目次

はじめに

自己紹介

仁科 「今日は『M&Aにおける第三者委員会の現状と今後の課題』と題して、座談会をさせていただきます。2015年6月に、我々3人で共同執筆した『M&Aにおける第三者委員会の理論と実務(商事法務)(以下「本書」という)。』が上梓されてから、約2年が経過しましたが、この間、第三者委員会についての実務が集積され、かつ第三者委員会の在り方や実務に一定の影響を与えるであろう最高裁の決定や社外取締役の定着があったことを踏まえて、議論をアップデートする趣旨でお集まりいただきました。本書は、レコフグループが協賛しているM&Aフォーラム賞の2016年の正賞(RECOF賞)を頂いたのですが、その内容を踏まえながら、今後、M&Aにおける第三者委員会がどうあるべきかに踏み込んで議論ができればと思っています。まず、自己紹介と書籍の執筆部分の概要についてお願いします」

白井 「同志社大学の白井です。商法、中でも会社法の分野を中心に研究・教育に従事しています。本書の最大の特徴は、実際に第三者委員会の委員として活動している実務家と法学研究者との共著という点にあると考えていますが、私の役割は、法理論的な観点から、企業買収の場面における第三者委員会の機能を整理し、提言するということで、第1章『第三者委員会に期待される機能』の執筆を担当しました。

  具体的には、まず総論部分として、構造的な利益相反関係のある企業買収の場面においてなぜ第三者委員会の設置が必要となるのか、そうした場面で第三者委員会に期待される役割とは何か、他の利益相反回避措置との違いは何かといった点を、企業買収の場面一般における判断権限の分配構造の観点から考察しました。その後で、各論部分では、MBOや支配株主による少数株主の締出しの場面における現在の法規制および裁判例の内容を紹介し、最後に、第三者委員会の有効性に関する評価基準について、主として米国法からの示唆を得ながら分析・検討しました」

仁科 「弁護士の仁科です。私は企業法務全般、特にM&Aを中心とした弁護士の職務に従事しています。本書では、第2章『第三者委員会に関する実務』で、実際に第三者委員会の委員を努めた経験を踏まえて、第三者委員会がどのように組成され、何をどのように審議し、答申書をどうまとめるのか、といった実務プロセスを時系列でまとめました。第三者委員会の委員を委嘱された人、あるいは第三者委員会を組成する必要が生じた企業の方々の役に立つように意識して執筆したつもりです。ただ、本書全体の特徴という意味では、私と岡さんが第2章・第3章で執筆した実務の部分もさることながら、理論的に第三者委員会はそもそもどう在るべきか、何をやる必要があるのかという、執筆当時は日本ではまだあまり議論されていなかった第三者委員会の行動規範について、第1章で白井先生に執筆頂いた点が非常に大きかったと思います」

 「岡&カンパニーの岡です。半年前までは、組織の中でM&Aコンサルティングの仕事をやっていました。具体的には、M&A戦略の立案や、バリュエーションやアドバイザーなどです。今は、個人事務所である岡&カンパニーで、M&Aや経営に関するコンサルティングをやりながら、上場会社4社で社外取締役または社外監査役をやっています。また、大学の非常勤講師として、M&Aを実践的視点から教えています。

  私は第3章『取引条件の公正性の検証』を担当しました。取引の公正性が最も問われるのは、取引条件、特に『価格』です。例えば、MBOの場合は、少数株主の利益を図る役割を担うべき取締役が買い手となるため、買い手として安く買いたいという誘惑に晒される。価格こそが人の欲望への感応度が最も高いところですから、第三者委員会の役割の中でも、価格を中心とした取引条件の公正性の検証が重要になります。本書では、具体的には、第三者委員会が財務アドバイザー(FA)や第三者算定機関によるバリュエーション(企業価値評価)に基づく『株式価値算定書』や『フェアネスオピニオン』を活用して、いかに判断するか。その実務などについて執筆しました」

第三者委員会の委員の選任から答申までの実務上の論点

仁科氏仁科 「本書の概要は以上ですが、中身を逐一ご紹介するわけにはいきませんので、第三者委員会の組成から答申に至る実務の流れの中で、第三者委員会が具体的にどういう活動をするのか、何が論点かについて、簡単に紹介したいと思います。

  そもそも、第三者委員会は、MBOや支配株主とのM&Aといった、利益相反構造にあるM&A取引における利益相反回避措置の1つで、他の回避措置に比べても、より強力で独立性の高い存在として位置づけられるわけですが、これをどういう場合に組成すべきか、組成の望ましいタイミングはいつにすべきか、委員会にどんな役割を期待すべきか、そしてその委員の人選はどう在るべきか、などが実務上の主なポイントです。第三者委員会はどういう場合に組成すべきかについては、平成19年の経済産業省のいわゆる『MBO指針』を受け、MBOによる非上場化案件のような典型的な利益相反構造のあるM&Aに限らず、親子上場解消(親会社による上場子会社の非公開化)などの支配株主によるM&Aも対象にすべきではないかといった議論があり、役割については、第三者委員会に何を諮問するのか、買い手との交渉まで委ねるのかという点には特に議論があるところです。そして委員の人選も大事なトピックです。本書執筆当時に比べると、社外取締役を導入する上場会社の割合が大幅に増えましたので、その変化をとらえ、一歩踏み込んだ議論ができればと思っております。それから、委員会の審議の内容も重要です。当然のことながら、企業価値の向上に質するM&Aでなければ第三者委員会として賛成できないわけですが、企業価値の向上といっても抽象的です。実務として具体的に何を審議・確認すべきなのか。また、企業価値の向上というマクロの視点と共に、ミクロの視点で言えば、各株主にとって公正な対価が支払われる必要があるというのも多言を要しないところですが、そこでいう公正な対価とは何か。これらマクロの視点とミクロの視点を踏まえて、最終的に東証の上場規則が求めている『少数株主にとって不利益でない』旨の意見を第三者委員会が具申するために、委員会として何を確認すればいいかが実務上は重要です。そして最後に、いかに答申書としてまとめるかの実務です。

  本書ではこうした実務プロセスを時系列にまとめたわけですが、例えばビジネスの世界で経営をされてきた社外取締役や社外監査役の方が急に委員を頼まれると、何をどうしてよいか分からない。そういう方々のための実務ハンドブックになればと思っています」

意外と大変な人選

岡氏 「まず、実務家として最近最も感じている点をご紹介したいと思います。その一つは、第三者委員会の委員の人選が難しいという問題です。私自身も、少し前に委員を依頼されましたが、その時はビッグ4のある会計事務所グループに所属していましたので、コンフリクトチェックで引き受けられなかった経験があります。第三者委員会の委員にとって不可欠ともいえる法務や会計・税務・財務の知見・スキルを持っている人は、法律事務所や会計事務所あるいはFAファームに属している場合が多く、事務所として何らか別の案件で関わっていると、利益相反が問われてしまいます。第三者委員の委員候補人材マーケットは意外と小さいように思います。

  それから、答申書の作成に関してですが、ちゃんと委員自らの手で答申書を作成しているかについても気になっています。レピュテーションを重視する大企業の場合は、名のある大物の先生に委員になってほしいとおっしゃいます。しかしそういう方の多くは、『手が動かない』。答申書を書く作業は、誰かほかの人にやってもらうことを前提としているのでは?と感じることがあります。会社、そしてFAは、答申書の作成を含めて、どういうバックグラウンドやスキルをもった委員の組み合わせの委員会がいいか、組成段階でよく考えたほうがよいと思います」

仁科 「私も、その点は実感しています。有名な人だと、社内の稟議も通りやすいのでそうなるのかもしれません。まさに組み合わせが大事で、そういう有名人だけで組成してしまうと、後で困ってしまうことがあり得る。これは、M&Aに限らず、不祥事系の第三者委員会でも同じようなことが言えるのですが」

白井 「なるほど。第三者委員会の委員候補の人材マーケットが意外と小さいこともあり、また実働部隊として実際に動いてもらう人が必要でもあり、人選は色々と難しいのですね」

第1 第三者委員会に関連する制度の最近の動向

1.ジェイコム事件最高裁決定のインパクト


(1)最高裁決定前の判例の情勢

仁科 「第三者委員会に関連する制度の最近の動向として重要なのは、2016年7月1日に出たジェイコム事件の最高裁決定でして、同決定は、これまでの第三者委員会の実務に大きなインパクトを与える可能性が高いと思われます。そこで、最高裁決定で何が変わったのかを確認する意味で、この最高裁決定までの間に出た最近の判例について、白井先生に簡単にまとめていただきたいと思います」

白井氏白井 「本書の執筆が終わった2015年1月以降、ジェイコム事件の最高裁決定までの間に出された裁判例の中で特に言及すべきものとしては、東宝不動産事件の地裁・高裁決定(東京地決平成27年3月25日金融・商事判例1467号34頁・東京高決平成28年3月28日金融・商事判例1491号32頁)と、ジェイコム事件の地裁・高裁決定(東京地決平成27年3月4日金融・商事判例1465号42頁・東京高決平成27年10月14日金融・商事判例1497号17頁)が挙げられます。

  これら4つの裁判例に共通する特徴は、公開買付け前置型の構造的な利益相反があるキャッシュ・アウトの事案において、公開買付け(TOB)の時点からキャッシュ・アウトの効力発生時点までの間に株式市場全体が高騰した場合に、裁判所は、株式市場全体の高騰を勘案した補正を行い、たとえ公開買付価格の算定手続において意思決定過程の恣意性を排除するための十分な措置がとられていたとしても、補正を踏まえた公開買付価格よりも高い価格をもって『公正な価格』と決定すべきかどうかが争われたという点です。東宝不動産事件の地裁決定とジェイコム事件の地裁・高裁決定はこのような補正を認めたのに対し、東宝不動産事件の高裁決定はこのような補正を否定していて、下級審裁判例において判断が大きく分かれていました。

  学説上は、このような補正を認めると、株主が機会主義的な行動をとる可能性があることなどを理由に、補正に反対する見解が多数だったと思います。すなわち、このような補正を認めてしまうと、とりあえずは少数株主は、キャッシュ・アウトを実施するための株主総会決議、例えば全部取得条項付種類株式の全部取得の決議に反対しておいて、その後、取得価格決定の申立期限までの間に株式市場全体の相場が大きく上昇し、それに伴って、公開買付価格を上回る価格を裁判所が『公正な価格』として決定してくれると期待できるようになった場合には、株式取得価格の決定を申し立てることによって、いわばリスクのない投機をすることが可能になるという問題が指摘されていました」

仁科 「実務的には、一段階目の公開買付け(TOB)に対して対象会社の取締役会が賛同意見や応募推奨意見を表明するに際して、二段階目に行われる非公開化の取引まで包含した1つのM&Aと捉え、これに対して第三者委員会が、当該M&Aが『少数株主に不利益でない』旨の答申をするのが普通です。ところが、この取引に対してその後のマーケットの事情を斟酌して裁判所が価格を補正するようなことが続くと、第三者委員会はそのような傾向を踏まえても『少数株主に不利益でない』旨を答申できるのか。将来価格が裁判所によって補正される前提で価格の妥当性を考えなければならないとすると、第三者委員会は不可能に近いことを強いられることになるので、賛同に躊躇するようなケースもありそうで悩ましいと思っていたところです」

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