[【企業価値評価】財務分析入門(一橋大学大学院 円谷昭一准教授) ]

(2017/02/01)

【第7回(最終回)】 財務諸表分析のゆくえ

 円谷 昭一(一橋大学大学院商学研究科 准教授)
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 本連載では、「財務分析入門」と題して7回にわたって連載してきました。前回までで財務諸表分析で押さえるべき点はほとんど説明しました。最終回の第7回は「財務諸表分析のゆくえ」と題し、分析において留意すべき事項を指摘します。いま、日本の会計をめぐる環境は大きく変わりつつあります。そうした動きは個々の分析にも少なからず影響を与えています。そうした影響を知ったうえで分析を進めることが求められています。まず1つは国際会計基準を採用する企業が徐々に増えてきていることです。次に、日本企業の資本生産性の相対的な低さを克服すべく「伊藤レポート」「コーポレートガバナンス・コード」といった諸施策が相次いで実施されていることです。

日本企業の会計基準

 これまで先進国各国は自国の会計基準を作成し、企業もそれら自国の会計基準を用いて財務報告を行ってきました。しかし企業や投資家の活動範囲がグローバルに広がり、ビジネスや投資は国境を越えて行われています。企業にとって、活動する国ごとにそれぞれの国の基準に従った財務諸表を作成することになると、複数種類の財務諸表を作成するためにシステム投資などのコストが増加し、作成するための時間も増えるでしょう。投資家やアナリストにとっても各国企業の財務分析を行う際には、国ごとに会計基準が異なるために比較が困難となり、分析に際して調整コストが生じます。

 こうした背景から1973年に各国の公認会計士によって国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee:IASC)がロンドンで設立されました。IASCは1973年以降、国際会計基準(International Accounting Standards:IAS)の作成を続けてきました。2001年に活動をさらに積極化させるために組織名称を国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board:IASB)と変更し、今後作成する会計基準の名称もIASから国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)と名称を変えました。IASは第41号まで作成され、その後のIFRSは2017年1月時点で第16号まで公表されています。したがって、現在は以前のIASとその後のIFRSとが混在していますが、一般的には両者を合わせてIFRSと呼んだり、国際会計基準と呼ぶことが多いようです。

 日本ではこれまで日本基準で作られた連結財務諸表が開示されていましたが、2010年3月期の期末決算からIFRSで作った財務諸表も認められることとなりました。このルール変更によって、2010年5月13日に日本電波工業は日本で初めて、IFRSによる決算短信を公表しました。その後、下のグラフから分かるようにIFRSを採用する(採用予定も含む)企業は着実に増えてきており、2016年12月時点では126社に達しています。
 


 また、日本では米国基準で連結財務報告を行うことも以前から認められています。2016年12月時点で筆者が集計したところ、連結財務諸表を作成している上場会社3,111社のうち、86社がIFRSを採用しており、22社が米国会計基準を採用し、残りが日本基準を使っています。社数で見ると日本基準が97%とまだまだ大勢を占めています。ただし、これを時価総額で見ると風景がガラッと変わります。日本基準を採用している企業の時価総額の全体に占める割合はほぼ三分の二となります。つまり、時価総額が大きい大企業がIFRSや米国基準を用いているのです。時価総額が大きい企業の多くはグローバルで活動をしており、株主にも外国人投資家が多いと思われます。そのため大企業を中心にIFRS・米国基準が使われているのです。
 


IFRS・米国会計基準の財務分析

 これまで日本基準とIFRS・米国会計基準には多くの差異がありましたが、2008年からそれら基準間の差異をなくそうとする統合化(コンバージェンス)作業が加速化しました。その結果


■筆者プロフィール■

円谷 昭一(つむらや・しょういち)
一橋大学大学院 商学研究科 准教授。2001年一橋大学商学部卒業。06年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了、博士(商学)取得。埼玉大学経済学部准教授を経て、11年より現 職。経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ-企業と投資家の望ましい関係構築を考える-」委員、「企業会計とディスクロージャーの合理化に向 けた調査研究」委員などを歴任。日本IR協議会客員研究員。主な論文に「機関投資家ファンダメンタルズと株主総会投票行動の関連性(月刊資本市場2016 年9月)」、「IFRSの任意適用が経営者業績予想の精度に与える影響(會計2016年6月)」など。

※詳しい経歴はこちら

 

 

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