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[【クロスボーダーM&A】「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」を読む(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)]

(2018/09/26)

【第9回】行動8 海外M&Aによる自己変革とグローバル経営力

汐谷 俊彦(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー)
ポストマージャーインテグレーションからポストマージャートランスフォーメーションへ

  多くの日本企業から「買収した海外の企業をうまくグリップできていないが、どうすればよいか」といった相談を受ける。対象会社のことを理解できていない、初歩的なところではそもそもコミュニケーションが十分でない、PMIを体系的に実施していない、といったさまざまな表層的な要因はあるものの、つまるところマネジメントに足るだけの制度・インフラ・能力がそもそも欠けていることが多い(結果として対象会社が見えていない)。日本人が日本人をマネジメントすることはできても、言語や文化の壁があり、外国人を含めたチームをマネジメントすることは難しく、外国人だけのチームをマネジメントすることはさらに難しい。海外企業買収におけるPMIとはつまるところ、グローバル経営の問題へと行き着く。グローバル経営のノウハウ・体制は多くの日本企業にとってまだまだ課題であることは、当社が行った昨年度のアンケート調査からも明らかである。





  しかし、グローバル経営力がないからといって、当面は海外M&Aをやめておこうという選択肢をとる時間はもはや日本企業に残されていない。問題はグローバル経営力が十分ではない状況において、如何に海外M&Aを上手くやるか、成功確率を上げるか、という論点であろう。

  そういった意味で、グローバル経営力が不十分な日本企業にとって、欧米のM&A慣れしている企業がとるインテグレーション(統合)アプローチはほとんど参考にならない。むしろ、買収側と買収先を合わせて、新しいものへとTransform(変革)するといった考え方を取るべきである。ありていに言えば、対象会社の良いところを積極的に取り込んだり(Best Practice)、実力主義(Meritocracy)で人材を登用したりといったところであるが、根本的には、会社の制度、インフラを抜本的にグローバル仕様に見直すことである。これは、費用の面でも時間の面でも新たな会社を作るぐらいの意気込みで臨む必要があるほど骨の折れる作業だ。こうしたことは、問題意識はあっても平時においてはなかなか取り組めないものだが、海外M&Aといった、いわば有事においては有効な自己変革の契機となりうる。PMIは対象会社を如何に本社のガバナンスに組み込むか、といった論点で検討するものではあるが、本社に非連続な変化を起こし、将来の成長基盤を確立するポストマージャートランスフォーメーションをぜひ目指してほしい。

“True Global Company"を目指す

  ポストマージャートランスフォーメーションの先にあるのは“True Global Company"である。日本企業の中でも海外企業買収によって社内のグローバル化が着実に進んでいる例も増えてきていると感じる。社内にも外国人が増え、買収企業から日本本社への人材派遣も進んでいることから、外国人(日本語以外の言語を話す)上司の下で働く若手も増え、グローバルビジネスの観点からは効果的な育成にもつながっているといえる。日本人だけでのグローバル化が難しいことは誰しもが理解するところであろう。グローバル経営の観点でいうと、買収先企業はすでに10年~20年は先を進んでいるケースも多々あり、伝統的な日本の会社が日本人だけの発想で経営を推進する時代はすでに過ぎ去っている。阿吽の呼吸ではなく明確なルールに基づいた意思決定のオペレーションが必要であり、グローバルで戦うためには本社が変わらなければならない。取締役会に外国人がいない、独立社外取締役が極端に少ないといったコーポレートガバナンスの面でもM&Aを契機に改革を加速したい。

魅力ある買収者になる

  一度M&Aをうまくやれば、「あの会社はM&Aがうまい」といった業界内でのレピュテーションが形成される。それが、次の買収に向けて大きな意味を持つ。

  買収される側も「この会社になら買われたい」という会社が増えるし、労働市場においても「この会社で働きたい」と考える人材が増える。買収する側からすれば、より良い条件で対象会社を選べるし、買収後の人材リテンションにも好影響がある。

  1件のM&Aを成功させることによって、この好循環が回り出し、投資家からも評価され、人材採用・リテンションにも好影響となり、元に戻ってM&Aの成功確率を上げることにもつながる。「買収者として魅力があるか」という点は、買収される対象会社の経営陣にとっても従業員にとっても重要なポイントなのである。そのために、グローバルで戦っていこうとする企業にとって“True Global Company"であることは“魅力的な買収者“であるための必要最低条件であろう。

  海外M&Aは、多くの企業にとって、もはや成長のための日常的な手段であり、これからも極めてパワフルな選択肢である。一方で日本型のオペレーションで、買収後の統合に苦戦している(もしくはそれを見越して、統合すらしていない)企業はまだまだ多い。故に、本来のM&Aの効果を出し切れていない企業も多い中、今こそ“ポストマージャートランスフォーメーション"を通じて“True Global Company"へと変革するタイミングではないだろうか。M&Aを契機にグローバル化をはかり、次のM&Aへとつなげる。それによってグローバル化のレベルを一段上げる。これらを繰り返し行うことによって、グローバル経営力をスパイラルアップし、“True Global Company"へと転換していくことが求められているといえる。


デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

■筆者略歴
汐谷 俊彦(しおたに・としひこ)
コンサルティング会社、事業会社企画部門を経て現職。
日本企業による海外企業買収にかかわるM&A/PMI、日本企業の海外投資/進出に関する経験多数。
M&Aを基点にした企業変革、グローバル戦略、事業再編に強み。その他事業戦略立案などを主に経験。





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