[【PMI】 攻めのPMI -企業価値最大化の契機としてのM&A(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

(2019/04/16)

【第2回】 シナジーの網を広く張る ~シナジー検討のあるべきアプローチ

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー)
加藤 千尋(マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイト・パートナー)
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価値創造の機会を取りこぼさないためのシナジー機会の網羅

  本連載では、「攻めのPMI~企業価値最大化の契機としてのM&A~」と題して、ディールから実現する価値創造の目標を高く設定し、PMIによって確実に果実を刈り取るための知見を紹介していく。価値創造に注目した理由は、日本企業がより意欲的な目標を掲げ、グローバル企業に変革するための契機となるM&AとPMIを行う際に参考にしていただきたい、と考えたためである。

  M&Aにおけるシナジーは多様であり、ディールの種類によって大きく異なる。デューディリジェンスの段階から、的確かつ網羅的にシナジーのロードマップまでを描き切れることは稀である。デューディリジェンスで買収価格を決めるための概算を頼りに実際の統合活動を進めることは、本来存在するあらゆるシナジーによる価値創造の機会を、実は数多く見落としている危険がある。マッキンゼーの調査でも、約40%以上の案件において、デューディリジェンス段階のシナジーの試算は十分ではなかったと関係者は回答している。特に、コスト削減が主目的のM&Aではなく、新たな技術や市場へのアクセスによる成長などを掲げる戦略的なM&Aで、実際に価値創造を最大化するためには、シナジーとして捉える機会の視野を広げ、網を広く張る必要がある。

  従来のPMIのアプローチにおいては、シナジーは「デューディリジェンスで試算した金額の確認と刈り取り」という位置づけが強かった。しかし、デューディリジェンスを通じて特定されるシナジーとは、大抵の場合時間が限られた中でまとめられているのと、買収ターゲットの適正価額を決めるという目的の一部に組み込まれてしまうことから、より踏み込んだ価値創造の機会は多く見落とされがちである。つまり、PMIの段階では、デューディリジェンスの確認という認識を変え、「この事業のオーナーとして、ここから価値創造に繋げる全ての方法はどういったものか」という問いを改めて立てて、詳細に検討を再始動する必要がある。

シナジー検討のフレームワーク

  図1が、従来マッキンゼーが提唱している、シナジー検討を体系的に行うためのフレームワークである。一つの軸では、3つの価値創造の層を検討する。「現業の価値の保存」、「合体によるシナジーの実現」、そして「選択的な変革の実行」の3つのレイヤーがある。もう片方の軸には、「コスト」、「キャッシュフロー」、「売り上げ」の3種類を検討する。シンプルではあるが、この3×3の9つのセルのそれぞれでシナジーを検討することで、およそシナジーを網羅的に捉えることができる。マッキンゼーの分析では、このようなアプローチを採用することにより、デューディリジェンス時点に試算されているシナジー金額から、数十%増から場合によっては2倍以上もの価値創造の機会を特定することができることが分かっている。

[図1]



  縦軸は、価値創造の三つの層である。

現業の価値を保存する
ディール実行によって生じる自社の事業運営の混乱や、サプライヤ・顧客・競合の動きによる既存事業の価値の棄損を防ぐ「守りの層」も、重要なディールによる価値創造の重要要素として侮れない。

合体によるシナジーを実現する
従来から最もよく検討されるシナジーの多くはこの範囲にある。2社の比較的単純な組み合わせによる価値創造で、規模の経済の活用や、統合による効率化はここに含まれる。

変革の機会を(選択的に)探る
見落とされがちな層であるが、ディールの本来の価値を刈り取るためには、注力すべき層である。選択的に、組織機能やプロセス、事業部を大きく変革することによる価値創造を指す。その多くが、買収によって得られる新たな組織能力を活用する形で実現される。


  横軸は…


マッキンゼー・アンド・カンパニー

■筆者経歴

野崎大輔(のざき・だいすけ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー
M&Aや合弁事業立ち上げを含むコーポレートトランザクション、事業統合マネジメント、戦略立案、次世代リーダー育成など、豊富な専門的知見を活かし幅広い分野のクライアントにコンサルティングを提供。日系企業のM&Aプロジェクトのプロセス全般における支援のほか、製造業、資源・エネルギー、消費財、ヘルスケア、戦略的投資家、機関投資家など、幅広いクライアントに関わる数多くのプロジェクトに従事。また、合弁事業立ち上げやその他のパートナーシップ締結も積極的に支援。
経営統合マネジメントにおいては、完全買収、マイノリティ投資、合弁事業立ち上げ、事業パートナーシップ締結など、様々な投資形態におけるプロジェクトに携わり、シナジー創出による投資対効果の最大化、オペレーション改善策の策定、クライアント企業の経営陣とチームメンバー双方を巻き込んだインプリメンテーションプログラムの開発に注力している。
2003年9月から2006年8月までマッキンゼーに在籍し、その後2012年6月に復職。Kohlberg Kravis Roberts (KKR)およびゴールドマン・サックスでの勤務経験を持つ。
東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻修士課程修了。

加藤千尋(かとう・ちひろ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイト・パートナー
M&Aやアライアンス、PMIや成長戦略を専門に、電子機器、半導体など製造業のクライアントを中心にサポート。シリコンバレー・オフィスでは、現地企業の成長戦略やM&A戦略および大型PMIに従事。日本でもクロスボーダーのM&Aやアライアンス、PMI、テクノロジー戦略といったテーマを専門に担当。また、製造業企業の全社変革プロジェクトにも従事。2007年にマッキンゼー入社。2013年にアメリカのシリコンバレー・オフィスに転籍、2017年に日本オフィスに復帰。
京都大学理学研究科修士/スタンフォード大学にてMBA取得。





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