[M&A戦略と法務]

2022年9月号 335号

(2022/08/09)

日本におけるスタートアップのM&Aの動向とJ-KISSの取扱い

竹内 信紀(TMI総合法律事務所シリコンバレーオフィス 弁護士)
林 雄亮(TMI総合法律事務所京都オフィス 弁護士)
  • A,B,EXコース
1. はじめに

 ここ数年、スタートアップ業界が活況を呈している。はや2年以上続いているコロナ禍における各国の財政出動がスタートアップ業界への資金流入をさらに促し、コロナ禍が始まった当初に誰もが予想したのとは真逆の好況状態が生じたことは、世界各国と並んで日本も同様であったが、それに加え、日本では、政府が旗振り役となり、スタートアップに関する様々な研究や施策の提言がなされていることもあり、スタートアップに対する注目度が非常に高まっている。実際、「スタートアップ」に関する報道やメディア記事も、年々増加傾向にある(注1)。

 このようにスタートアップに対する注目が高まり、その絶対数が増えてくると、必然的に増えてくると思われるのがスタートアップを対象とするM&Aである。なぜなら、外部の投資家から資金を調達して事業を拡大していくスタートアップは、事実上、投資家に対して投資回収を図る機会(いわゆるExit)を提供することを義務付けられている存在であり、M&Aは、ステージや事業内容、事業環境が多種多様であるスタートアップに対して、IPOに比べ迅速なExitの機会を提供することができるからである。

 本稿では、そのようなスタートアップに対するM&Aの動向を簡単にまとめた上で、特にアーリー期のスタートアップが発行していることの多いJ-KISSと呼ばれる投資手法とM&Aの関係、具体的には、その仕組みと留意点について、簡単に検討を行うものである。

2. スタートアップをめぐるM&Aの動向

 「スタートアップ」という言葉が一義的に何を意味するかは必ずしも明らかではなく、そのExit手法としてM&Aが選択された「スタートアップ」を洗い出すためには、まずは「スタートアップ」がどのような会社なのかを明らかにする必要がある。この点、スタートアップ・プラクティスにおいて世界をリードする米国では、いわゆるVenture Capitalから資金的な支援を受けている会社を「VC-backed companies」と呼び、VC-backed companiesのExitの動向について、各種分析が行われている。例えば、National Venture Capital Associationが毎年公表しているYearbookの2022年版(注2)では、過去10年以上にわたるVC-backed companiesのM&Aの特徴が明らかにされており、その概要は、図1の通りである。

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