[ポストM&A戦略]

2018年8月号 286号

(2018/07/17)

第116回 経営統合の拡張・強化

竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング パートナー)
  • A,B,EXコース
 M&Aを行った以上、買収価格を上回る企業価値を実現することがどうしても必要である。経営は要するに結果がすべてではあるが、その経営を考えるときは、求める結果の実現確率をどうやって高めるかがポイントとなる。このような視点に立脚し、前回連載では、1) 買収先に対するコントロールを確立し、2) 経営統合を進め、3) さらに合理性がある場合は組織統合に至る一連のプロセスの全体像と、各ステップのタイミングを整理した。
 今回は、この議論をさらに進め、「経営統合以上、組織統合未満」の領域が存在することと、その領域において、経営統合をいかに拡張・強化し、あるいは今後の組織統合の効果をいかに先取りする可能性があるか、視点と具体的な打ち手について論じる。


経営統合以上、組織統合未満の領域とは

 経営統合とは、買い手(親会社)組織と買収先組織の統合こそ行わないが、買収先を親会社の内部に取り込み、買収の狙いに合致する一体的な経営を行うことである。この一体的に行う経営の範囲と深さは、合理性と現実性も見て決定する。しかし、組織統合がない以上レポートラインが変わらないので、依然として買収先のすべてのことを買収先経営トップが掌握し、経営トップが親会社に報告する構造である。すなわち親会社は、買収先経営トップに対しては指示命令を行うポジションにあり、その経営トップを介して買収先を相当程度内部化している。しかし、経営トップの下については、可視化によって牽制を掛けているとはいえ、間接統治である。
 一方で組織統合とは、レポートラインを付け替えて、親会社の部門と買収先の部門を直結・再編して一体運営するものであり、買収先は完全に内部化される。これに伴い、買収先経営トップをはじめ、統括的なポジションは消滅するか、あるいは役割・権限が大幅に縮小されるのが通常の帰結である。
 前回改めて示した通り、統合の類型(最終形)のうち、スタンドアロンについては原則として組織統合は発生せず、内包については原則として組織統合は間接部門などの一部にとどまる(図1の矢羽)。

 このように整理したうえで、図1に点線で囲ったとおり、建前は買収先経営トップを介した間接統治のままであるが、実態的に内部化を一歩進める「経営統合の拡張」あるいは「組織統合効果の一部前倒し」というべき領域が存在する。具体的には、図2に掲げた諸点である。これらの点は、間接統治のもどかしさを減じるために、理屈からは必ずしも行わないことではあるが、うまい方法を考えて何とか実施してしまうものであり、あるいは組織を統合した暁にはできてしまうことではあるが、準備に時間の必要な組織統合に先行して、その効果を一部先取りしようとして実施するものである。以下に、順を追って解説する。

①ポジションのレポートラインは変更しないが、重要ポジションに親会社から人を送り込む

 本項で取り上げるのは、例えば、CFOや経営企画トップ、製造部門トップといった重要ポジションに親会社から人材を送り込むことである。
 「人を送り込まないと、とても不安」「人を送り込めば、ひとまず安心」ということから、事象としては比較的よく行われていることである。買収後の状況が悪く、あとになって送り込むこともあるが、クロージングとともに送り込むことも少なくない。
 親会社から人を送り込む狙いの第一は、

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事