【受賞作品】(所属は執筆または応募時点)
◆M&Aフォーラム賞 正賞『RECOF賞』 1篇
『敵対的買収とアクティビスト』
【著者】太田洋(西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー弁護士)
◆M&Aフォーラム賞 奨励賞『RECOF奨励賞』 2篇
『経済安全保障と対内直接投資-アメリカにおける規制の変遷と日本の動向-』
【著者】渡井理佳子(慶應義塾大学大学院法務研究科 教授・行政法)
『戦略的提携ネットワークがモジュラー化産業における競争優位性に与える影響
-ロジック半導体企業の探索戦略に関する研究-』
【著者】澤野亮太(東京大学大学院 工学系研究科技術経営戦略学専攻 修士課程2年
/ デロイトトーマツコンサルティング合同会社M&Aユニット)
◆M&Aフォーラム賞 選考委員会特別賞『RECOF特別賞』 1篇
『日本のM&Aにおける会計保守主義の機能』
【著者】松崎優一(東京大学経済学部金融学科4年)
21作品が応募 M&Aフォーラム賞選考委員会は、2023年度(令和5年)「
第18回M&Aフォーラム賞」に4作品を選定し、10月18日授賞式が行われた。
「
M&Aフォーラム」は、2005年の内閣府経済社会総合研究所の「M&A研究会」において民と官との連携ができる民間ベースのフォーラムが提唱されたことを受け2005年12月に設立され、今年で19年目を迎える。
理論的、実証的及び実務的な視点から、進歩、変化するM&A事情の研究・調査を行い、今後の我が国におけるM&Aのあり方について提言を行うとともに、主に企業人を対象にした「M&A人材育成塾」の運営等の活動を通じて、M&Aの普及・啓発、人材や市場の育成に資することを目的としており、さまざまな関係分野の有識者、実務専門家、企業関係者が参加する場となっている。
「M&Aフォーラム賞」は、2000年度に「M&Aに関する社会科学的観点からの研究論文の執筆で顕著な業績をあげた学生・院生を顕彰する懸賞論文制度」としてレコフが創設した『RECOF賞』が前身で、M&Aフォーラムからの強い要請もあり、学識経験者、行政担当者、M&A専門家、企業関係者(実業界)ならびに大学院、大学、各種専門学校を含めた学生にいたるまで幅広い分野に対象を広げ、06年にM&Aフォーラム賞『RECOF賞』として引き継がれた。
第18回を迎えた今回は、法律、経済、経営、税務・会計、ファイナンスなどをテーマにそれぞれの観点で掘り下げた、21の書籍・論文の応募があった。
選考委員長の岩田一政氏(公益社団法人日本経済研究センター代表理事・理事長)のもと、大杉謙一氏(中央大学法科大学院教授)、西山茂氏(早稲田大学ビジネススクール教授)、岩口敏史氏(レコフデータ会長)の3人の委員によって、
①作品が創造性に富んでいること
②理論的、実証的な分析を行っていること
③実用性・実務への応用可能性が高いこと
④問題点を先取りし、その解決の糸口を論じたもの
⑤M&Aの啓蒙に資するもので、業界全体への影響力が高いと判断されるもの
などが主な基準で審査が行われた。
岩田選考委員長による講評
岩田 一政 氏 岩田選考委員長は、「本年の特徴は、事業承継や非友好的な買収に関する作品が多かったように思います。また、優れた学生論文が多数寄せられたことも今年の特徴でありました。応募作品の順位付けを巡って、最後まで慎重に熟議を重ねました」
として、次のように講評を述べた。
「M&Aフォーラム賞正賞『RECOF賞』を受賞した太田洋著『敵対的買収とアクティビスト』は、日本における敵対的買収とアクティビストについての包括的で行き届いた啓蒙書であります。
敵対的買収と非友好的買収の違い、アクティビスト、買収防衛策、敵対的買収に対する各国の規制および敵対的買収とアクティビストの将来にわたるまで、弁護士として実務経験を踏まえてきめ細かく、かつわかりやすく解説されています。
良い敵対的買収とは何か、良い株主アクティビズムは何か、考えを深める上で必読の書であります」
と高く評した。
続いてM&Aフォーラム賞奨励賞『RECOF奨励賞』として、『経済安全保障と対内直接投資-アメリカにおける規制の変遷と日本の動向-』、『戦略的提携ネットワークがモジュラー化産業における競争優位性に与える影響-ロジック半導体企業の探索戦略に関する研究-』の2つの作品について述べた。
「渡井理佳子著『経済安全保障と対内直接投資-アメリカにおける規制の変遷と日本の動向-』は、米国の経済安全保障に関する法制度、とりわけ対内直接投資を中心に歴史を追ってサーベイした上で、日本の対内直接投資規制と経済安全保障政策に与えた影響を考察した学術書であります。
本書は、日本では行政指導など行政活動の占める役割が大きいことに鑑み、対内直接投資規制に関する透明性の向上と予見可能性について世界をリードすることを期待しています。
安全保障と経済活動の自由のバランスをいかにとるかという問題は、日米のみならず世界共通の課題であります。本書は、この課題を考える上で不可欠の書と言えます」
「澤野亮太著『戦略的提携ネットワークがモジュラー化産業における競争優位性に与える影響-ロジック半導体企業の探索戦略に関する研究-』は、半導体生産のアーキテクチュアの違いに着目しています。
モジュール型が進展するロジック半導体産業においては、新しい技術・知識の所在を特定し、事業モデルの確立・標準化を進め、将来のパートナー選別を可能にする「探索戦略」が適しています。他方で、パワー半導体はアーキテクチュアにインテグラル型(すり合わせ型)を残しており、「深耕戦略」が競争優位を確立しやすい分野であります。
TSMCは、アーキテクチュアのモジュール化に成功した企業であり、日本のラピダスも多くの関連企業とのネットワークを形成できるかどうかが問われています。日本が先端半導体産業の再興に成功するかどうかが注目されている今日、多くの示唆を与えてくれる論文であり高く評価できます」
と評した。
続いて、M&Aフォーラム賞選考委員会特別賞『RECOF特別賞』として、『日本のM&Aにおける会計保守主義の機能』について述べた。
「松崎優一著『日本のM&Aにおける会計保守主義の機能』については、会計保守主義には、ニュース発生とは無関係に保守的な会計処理を行う「無条件保守主義」とニュース発生後に保守的な会計処理を行う「条件付き保守主義」があります。
本書は、2003年から2022年にかけての買収・合併案件について、「条件付き保守主義」に立つ会計報告には、In-In企業買収を行う買手企業にメリットをもたらす機能があり、会計保守主義の程度が高い企業が選好されること、また、買収・合併に関する2007年証券取引法改正後には、買収プレミアムを通じて買収された企業にもメリットが還元されているとの実証分析を手堅く行っています」
と締めくくった。