1 はじめに 中小企業庁は、2024年8月30日、「中小M&Aガイドライン(第2版)―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―」(以下「第2版GL」という)を改訂し、
第3版を公表した(以下「第3版GL」という)。
なお、本稿で用いる用語は、特段の断りのない限り、第3版GLの「◆用語集」(第3版GL16頁以下)で規定する用語に準拠している。また、本稿の意見に関する部分は、本稿執筆時における筆者らの個人的見解にすぎず、所属する組織を代表するものではないことをはじめに付言させていただく。
そもそも、中小M&Aガイドライン初版は、2015年3月付「事業引継ぎガイドライン」(中小企業向け事業引継ぎ検討会)を全面改訂する形で2020年3月にはじめて策定され、その後、2023年9月に第2版GLへ改訂された(注1)。
もっとも、第2版GLへの改訂後も、第2版GL改訂時の背景に存在した中小M&Aの市場拡大やM&A支援機関の増加といった市場環境の変化は更に進み、これに加え、不適切な譲り受け側の存在や
最終契約の不履行(経営者保証に関するトラブル等)が指摘されることとなった。もともと、第2版GLへの改訂に際しても、仲介者・
FA(フィナンシャル・アドバイザー)の営業活動に関する論点等いくつかの継続論点が積み残されており(注2)、これらの背景を踏まえて第3版への改訂がなされることとなった。
第3版への改訂に当たっても、第2版GL改訂時と同様「中小M&Aガイドライン見直し検討小委員会」(座長・山本昌弘明治大学商学部教授)を開催し、全2回にわたり、見直しに関する検討が行われた。同小委員会の議論を踏まえ、不適切な譲り受け側の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者による過剰な営業・広告等の課題に対応し、中小M&A市場における健全な環境整備と支援機関における支援の質の向上を図る観点から、中小企業向けのガイダンスおよび仲介者・FA向けの留意事項等を拡充した。また、各種契約書サンプル等をまとめた「参考資料」(注3)においても、今回の改訂に併せた修正が加えられた。改訂内容は多岐にわたるが、本稿は主な改訂内容について解説する。
■田尻 雄裕(たじり・ゆうすけ)
中小企業庁 事業環境部 財務課 課長補佐
■林 寛之(はやし・ひろゆき)
中小企業庁 事業環境部 財務課 課長補佐(任期付)・弁護士
2018年弁護士登録、レックス法律事務所(現:TXL法律事務所)、ユニヴィス法律事務所にて、事業再生、M&Aや中小企業における役員間紛争等に従事。2024年5月から中小企業税制や事業承継・M&Aの推進などを所管する中小企業庁財務課に課長補佐として着任。経営承継円滑化法の運用、中小M&Aガイドライン(第3版)の改訂、登録制度の運用やPMIガイドラインの普及等を担当。
■菱川 舞(ひしかわ・まい)
中小企業庁 事業環境部 財務課 調査員