[寄稿]

2022年8月号 334号

(2022/06/16)

地銀の資本政策におけるMBOと株式上場の意義・再考~シルチェスターの株主提案が問うた「株主からの規律付け」

野崎 浩成(東洋大学 国際学部 教授)
  • A,B,EXコース
※本記事は、M&A専門誌マール 2022年8月号 通巻334号(2022/7/15発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。

相次ぐ株主提案

 2022年度の定時株主総会に向けて、イギリスのバリューファンドであるシルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(以下「シルチェスター」)が4つの有力地銀(岩手銀行、滋賀銀行、京都銀行、中国銀行)に対して、大幅な増配を求める株主提案を行った。これに対し、5月の決算発表のタイミングに合わせて、これら4地銀が、株主提案に対する取締役会の反対決議を発表している。正確に述べれば、いずれも提案株主はNorthern Trust Co. (AVFC) Re Silchester International Investors International Value Equity Trustであり、Silchester International Investors LLP(シルチェスター)を代理人とする。言うまでもなく、ここでの提案株主はカストディアンに過ぎず、シルチェスターが提案を行った実質株主である。また、中国銀行を除く3つの銀行にとって、シルチェスターが実質的な筆頭株主となっている。

 シルチェスターは各行への株主提案のなかで自身がアクティビストではないと否定しているが、過去数十年の歴史を振り返ると、バリュエーション低位株などを中心に投資対象とし、主に株主還元を迫るアクティビストとして言及されることが少なくない。各行への具体的提案内容の詳細については説明を省くが、各行が掲げる配当政策等に対して特別配当による大幅な増配を要請するとともに、提案理由の中で「会社の純利益のうち、当会社のコア事業に直接関連しないもの(具体的には当会社が保有株式に関し受け取る配当金)の 100%に相当する金額を株主に分配すると共に、コアの融資事業からの純利益の50%に相当する金額を株主に分配するべきである」としている点が共通する。また、特別配当を行っても、各府県における資金供給などに支障がない点も等しく強調されている。

 この提案に対して各行の取締役会が反対する理由について、プレスリリースを見る限りは、健全性の維持からシステム更改を控えての投資計画まで様々であるが、おおむね定性的な理由付けが目立つ。ただし、中国銀行による理由付けは、投資専門会社を通じたエクイティ投資を始めとして数値的にも内容的にもより具体性が備えられており、しっかりした受け止めを行った印象を持たせる。

「株主利益」と「地域利益」の相反

 さて、低PBR(株価純資産倍率)とその背景となる低ROEをベースとして、資本圧縮による資本効率改善を求める話は、新しくはない。株主に視座を置いた資本市場のロジックで言えば、違和感のない主張といえる。しかし、近年は「ステークホルダー資本主義」が叫ばれ、株主第一主義やROE至上主義からの脱却が、株式市場、発行会社双方の課題として突き付けられている。特に、地銀に関しては、主要行とは異なり、地域コミュニティという重要なステークホルダーを抱える。

 改めて地銀のガバナンス構造の本質を考える必要性を感じているのは、筆者ばかりではなく、地銀経営者が最も実感しているのではないか。本稿では、議論を先鋭化させるために、敢えて「非上場化」と「上場継続」というコントラストを与えて「持続可能な地域金融」について考察する。

 純粋な株式投資家による、株主利益に重点を置いた経営監視は、

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