[【企業変革】価値創造経営の原則と実践(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

(2021/03/10)

【第2回】価値破壊の重力との飽くなき戦い

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
柳沢 和正(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー)
呉 文翔(マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー)
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【はじめに】 

 企業活動によって生み出された付加価値はROIC(投下資本収益率)WACC(加重平均資本コスト)の差分に投下資産を乗じたエコノミックプロフィットで表現される。この値がプラスであれば企業は価値を生み出していることを意味し、マイナスであれば価値を破壊していることになる。そして、このエコノミックプロフィットは企業単位でも事業単位でも測定することが可能であり、また現実的には実践されることは稀ではあるが製品単位や顧客単位や取引単位などでも算出することが理論上可能である。更には産業単位やあるいは国家単位のマクロ的な視点でも測定することは可能である。

 本稿ではこのエコノミックプロフィットという価値創造の尺度を用いてどのように企業全体が生み出す付加価値を押し上げるかについて述べたい。

【価値創造の分布には一定のパターンが見られる】 

 我々の分析からは任意の母集団のエコノミックプロフィットの分布を見るとどのような母集団であっても一定のパターンが観測されることが分かっている。具体的には概ね三分の一程度のサンプルは全体の価値創造に大きく貢献し、三分の一程度のサンプルはほぼ価値創造がゼロであり、そして残り三分の一は価値破壊をし、結果として母集団全体が生み出したエコノミックプロフィットはプラスのみのサンプルの累積値よりも相応に減少するのである。 

 これは国家単位でも産業単位でも同様であり、一つの企業の中でも部門単位でも製品単位でも取引単位でも同じパターンが見られる。どれだけ母集団を拡大しても、あるいは縮小しても同じなのである。幾何学の分野において図形の部分と全体が自己相似している状態を指すフラクタルの概念と通じるために我々はこれをバリューフラクタルと呼んでいる。またフラクタル幾何は雪の結晶や海岸線などの自然界においても見出される事象である。 

【国家、産業、企業単位でも同じパターンが観察される】 

[図1]


 いくつかの例を提示する。図1では日本の金融を除く東証一部上場企業の累積のエコノミックプロフィットを提示している。この図からは1,267社は11.1兆円の価値創造をしており、738社は4.2兆円の価値破壊をし、日本全体では6.8兆円の価値創造となっている。約三分の一の企業は価値破壊をしているのである。価値創造企業に目を向けると価値創造の上位80%は12% (ニッポン株式会社151社)の企業から生み出されており、同様に価値破壊もまた下位80%が16% (ニッポン株式会社121社)の企業から生み出されているのである。残りの企業はどちらの場合も全体の価値創造/破壊にはほとんど寄与していないとも見ることができる。これは国家単位であるがこれを産業単位にしても同様である。例えば生産機械分野においても同じパターンが見られる [図2]。 

[図2]


 さらにこのパターンは企業内でも同様である。金融を除く東証一部上場2,005社のうち複数の事業セグメントを持つ企業は1,519社あり、そのセグメント数の平均は3.7である。そして4つのセグメントを持つ企業の加重平均のエコノミックプロフィットは図3の通りである。価値創造セグメント、価値破壊セグメントがそれぞれ二つあり、かつどちらも一つのセグメントが大半を占めもう一つはほぼゼロに近いのである。これを更に顧客単位、製品単位、取引単位にしても同様である。図4ではある化学品企業の製品別の累積セグメント利益の分布を提示しているが同様のパターンが見える。 このようにビジネスにはエコノミックプロフィットを逓減させる重力のような力学が働いており一部の取引が価値破壊に陥ると考えられるのである。 

[図3]

 [図4]....

マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社

■筆者略歴

野崎 大輔(のざき・だいすけ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー

日本における戦略・コーポレートファイナンス研究グループのリーダー。
M&A、合弁事業立ち上げやその他のパートナーシップ締結、事業統合マネジメント、戦略立案、次世代リーダー育成など、幅広い分野に従事。日系企業のM&Aプロジェクトのプロセス全般における支援のほか、製造業、資源・エネルギー、消費財、ヘルスケア、戦略的投資家、機関投資家など、幅広いクライアントに関わる数多くのプロジェクトに従事。Kohlberg Kravis Roberts (KKR) およびゴールドマン・サックスでの勤務経験を持つ。

東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。


柳沢 和正(やなぎさわ・かずまさ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 パートナー

日本におけるプライベートエクイティ・プリンシパルインベストメント研究グループのリーダーとして、プライベートエクイティおよび商社の成長戦略、M&A戦略、ビジネス・デューデリジェンス、買収後のバリューアップ、売却などのコンサルティングサービスを提供。加えて製造業企業から消費財企業まで幅広いクライアント企業に対して戦略立案やコーポレートファイナンスに関するコンサルティングサービスを提供。
東京大学工学系研究科修士課程修了。

呉 文翔(くれ・ぶんしょう)
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本支社 アソシエイト・パートナー

ポートフォリオ戦略、企業買収や事業売却などのコーポレートトランザクション、統合マネジメント、投資先企業の事業価値向上施策立案など豊富な専門的知見を活かして主にプライベートエクイティファンドや総合商社のクライアントにコンサルティングを提供。資源・エネルギー、電力、消費財、ヘルスケアなど、幅広い分野において数多くのプロジェクトに従事。
2015年からマッキンゼーの東京オフィスに参画。マッキンゼー入社以前は三井物産にてエネルギーセクターでの事業投資案件に従事し、数多くのクロスボーダーM&A案件を担当してきた経験を持つ。
慶應義塾大学法学部法律学科(学士)卒業/ハーバード大学経営学修士(MBA)修了。





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