2050年のカーボンニュートラルへ向けた戦い
2021年4月、WORLD CAR AWARDSは「2021 WORLD CAR PERSON OF THE YEAR」にトヨタ自動車代表取締役社長の豊田章男氏を選出した。同賞は過去1年間に自動車業界において最も活躍した人物に贈られるもので、世界24カ国86人の審査員の投票によって選出される。豊田氏は、初めて世界の自動車業界の“顔”に選ばれた日本人経営者だ。
その豊田社長は日本自動車工業会の会長も務めているが、2020年12月に行われた自工会の会見が波紋を投げかけた。菅義偉首相は2020年10月に行った初の所信表明演説で「温暖化ガスを50年までに実質ゼロにする」と宣言し、脱炭素化へ向けて、2030年代半ばまでに新車すべてをEV(電気自動車)や、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)などに切り替える方針を明らかにした。これを受ける形で12月に行われた日本自動車工業会での豊田会長の会見が、政府の政策への苦言と報道されのだ。
これについて、PwC Strategy&の赤路陽太ディレクターはこう解説する。
「日本自動車工業会(自工会)は、『2050年のカーボンニュートラル(二酸化炭素排出の実質ゼロ)を目指す菅総理の方針に貢献するため全力でチャレンジすることを決定した』と発表したにもかかわらず、一部のメディアやネットではその一部のみが切り取られ、『脱ガソリンに反対した』『政府を批判した』かのような記事やコメントが散見されました。しかし、自工会の真意は、今後も国内の自動車産業を維持するためには、排出ガス規制がLCA(Life Cycle Asessment : 製品やサービスに対する環境影響評価手法)ベースになることを見据え、自動車産業のみならずエネルギー産業も含めたサプライチェーン全体で変革に取り組まなければならないことを世の中に説くことにありました。電力の89%を原子力発電や再生可能エネルギーで賄っているフランスなどと比べて日本は火力発電への依存度が大きい電源構成になっています。そのため、政府および国際社会における環境目標を達成するには、国のエネルギー政策の大幅な転換が必要であることを強調し、日本の自動車産業の売上の多くが日本からの輸出を含む海外市場で構成されているなか、現状の電源構成やエネルギー基本計画では、同じ車を作るのであれば、日本国内よりフランスで自動車を生産した方が環境に良く、市場競争力が高くなってしまうという危機感を述べたのです。(下図参照)
つまり、