[M&A戦略と法務]

2022年6月号 332号

(2022/05/13)

スタートアップによる株式インセンティブプランの活用とM&Aにおける留意点

吉井 久美子(TMI総合法律事務所 カウンセル 弁護士 公認会計士)
  • A,B,EXコース
第1 はじめに

 スタートアップは、事業の成長によって企業価値を向上させ、株式上場(IPO)や買収(M&A)によるエグジットを志向する。その成長過程において、役職員に対する株式を対象としたインセンティブプランの導入が一般的となっている。株式を対象としたインセンティブプランには、(1)将来株式を取得することができる権利である新株予約権(ストックオプション)の付与と、(2)一定の条件に基づいて直接株式を交付する株式の交付がある。

 特に近時では、新株予約権の設計が多様化し、スタートアップにおいては導入が早期化している傾向にある。また、株式の交付については、税制改正、会社法改正が導入を加速させ、付与対象者は役員のみならず従業員にも拡大している。また、スタートアップの上場前後のステージでは、新株予約権のみならず株式の交付によるインセンティブプランを検討していくことになるであろうし、上場会社傘下の非上場子会社であれば、上場親会社の株式を対象とした株式の交付を導入している事例も珍しくなくなってきている。

 このように株式を対象としたインセンティブプランが多様化していることを踏まえると、M&Aにおいては、M&Aの対象企業(以下「対象企業」という)が採用しているプランを早期に把握し、デュー・ディリジェンスにおいて精査して、買収交渉の際に適切に考慮したうえで、M&A後のポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)を通じて統合していくことが重要課題となる。また、スタートアップが国際的な競争力を持つためには欧米に遜色のない充実したインセンティブプランが必要であり、持続的に企業価値を向上させていくためには、ステージに応じて戦略的に導入していくことが望まれる。

 そこで、本稿では、役職員に対する株式インセンティブプランを網羅的に概観したうえで、その活用場面やM&Aにおける留意点を概説したい。

第2 新株予約権(ストックオプション)によるインセンティブプラン

1.概要

 実務においてインセンティブとして活用されている新株予約権(ストックオプション)には、税制適格ストックオプション、有償ストックオプション、そして、従来から退職慰労金制度の代替としても活用されてきた株式報酬型ストックオプション(いわゆる「1円ストックオプション」)がある。近時は、信託と有償ストックオプションを組み合わせた信託型ストックオプションや、会社法上の新株予約権ではないものの、譲渡予約権というインセンティブプランも活用されてきている。

(1)税制適格ストックオプション

 税制適格ストックオプションとは、

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