[M&A戦略と会計・税務・財務]

2014年5月号 235号

(2014/04/15)

第83回 ロックド・ボックス方式による価格決定について

 舟引 勇(PricewaterhouseCoopers LLP <PwC UK> Assistant Director)
  • A,B,EXコース

はじめに

  M&Aにおいて株式売買等を行う場合、取引価格の合意は取引実行日(クロージング日)前の一定の基準日(評価基準日)の財務数値等をベースとして算定された価格で合意されるのが一般的です。評価基準日から取引実行日までの期間は様々ですが、長い場合には数カ月の期間が設定される(1年近い期間が設定されるケースもある)ため、売買契約書上、取引実行日現在の財務数値に基づく取引価格に関する価格調整条項が設定されるのが一般的です。このように取引実行日の財務数値に基づき最終価格が調整される方式をクロージング・アカウント(Closing Account)方式、或いは、コンプリーション・アカウント(Completion Account)方式と呼びます。  

  一方で、例えば英国のプライベート・エクイティ・ファンド(Private Equity Fund、PE ファンド)が売り手となるM&Aの価格決定においては、株式譲渡価格が売買契約書(SPA;Sales Purchase Agreement)締結時に確定し、クロージング時の価格調整を行わないロックド・ボックス(Locked Box)方式が一般的です。

  ロックド・ボックス方式は、日本ではそれほど採用されていませんが、英国をはじめとした欧州案件、とりわけPEファンドが売り手の場合に多く見受けられる方法であり、日本企業が海外事業の買収に際し遭遇することも多くなっています。

  本稿では、そのメカニズム、主な利点と潜在的なリスクについて説明しながら、ロックド・ボックス方式によってディールの価格決定を行う際に留意すべき点について考えます。

  なお、評価基準日(或いは、ロックド・ボックス日)から取引実行日までのそれぞれの方式に基づく流れを要約すると図表1のとおりです。

【図表1】評価基準日から取引実行日までの流れ

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