[【PMI】未上場企業買収後のPMIの実務(エスネットワークス)]

(2017/09/20)

第2部 経営企画

第4回 PMIにおける「予算編成」の必要性

 熊谷 伸吾(株式会社エスネットワークス 経営支援第1事業本部 副本部長 兼 Esnetworks Asia Global Pte. Ltd. Director)
  • 無料会員
  • A,B,C,EXコース

1.はじめに

  今回の連載企画は、「上場企業または、プライベート・エクイティ・ファンド(以下PEファンド)が未上場企業を買収した」という前提で進めさせていただいています。

  この前提において、第1部で述べた「財務経理」については、一部の対象企業では必要十分な財務経理体制を構築できていることが稀にありえます。一方で、筆者の経験上、上場企業やPEファンドが本当に満足する予算が作成されていたり、経営企画機能を有しているというような企業は、過去に上場企業であったなどの事例でない限りほぼ100%ないという感覚があります。

  上場企業である親会社マネジメントやPEファンドはオーナー経営者と異なり、当該事業に24時間注力するわけではありません。したがって、彼らは事業をできるだけ科学的にコントロールするために「予算」というツールを使うことを求めます。予算には、結果としての売上・利益といった数字だけでなく、その数字の根拠となる活動も含んだ総合的な対応となります。そのため、予算編成という業務は、今まで暗黙知であったものを見える化するとともに、会社の価値と可能性・成長性を再発見するという意味を持った取り組みともいえます。

2.予算編成と予算統制の関係

  まず、「予算編成」と「予算統制」について、以下のように用語を定義させていただきます。

    予算編成(図1):毎年一定の時期に、来期1年分(又は中期)の予算を作成すること
    予算統制(図2):予算編成で作成した予算について、毎月実績値の検証を行っていくこと

  すなわち、「予算編成」という年に1度のイベントで作成した『予算』を、「予算統制」によって毎月運用して経営に活かしていくという関係にあります。

 また、予算編成および予算統制を統括する部署や機能を本企画では「経営企画(部門)※」として名称を統一させていただきます。

※一般には経営戦略、経営企画、業務戦略等の名称で呼ばれることが多い






【予算編成】

3.現状予算の確認(「統制」の確認も含む)

  PMIでCFOとして新予算編成を実行する場合は、当然ですが、会社側が現状作成している予算管理の状況を確認します。その場合のポイントは以下になります。

(1)必要十分性

 ①そもそも予算そのものが存在しているか
 ②売上予算のみか、P/L全体としての予算か
 ③P/Lと連動した、B/S、C/F予算が存在するか


(2)粒度

予算科目が十分に区分されているか 
複数部門、商材がある場合、部門/商材ごとに作成されているか 
売上・原価において、「結果KPI」 ※ と予算数値が1対1で対応しているか 
フロント部門で「結果KPI」と「活動KPI」の連携がとれているか
 
 
KPI(Key Performance Indicator)は、財務数値等の最終目標を達成するための中間指標であり、その中でも活動KPIと結果KPIに分類できる。
例えば「売上高」というのは最終目標であるが、その元となっている「契約顧客数」「顧客単価」は結果KPIであり、更にその元となった「訪問回数」「提案回数」等は活動KPIといえる。
 
 活動KPI:顧客訪問回数、セミナー実施回数といった「直接コントロール可能な」指標
 結果KPI:受注件数、受注単価といった「活動KPIの結果として出てくる(直接コントロールは難しい)結果」指標


(3)正確性(検証性)

 ①予算作成の基となった計算資料が存在するか
 ②直近の実績との乖離はどうなっているか


(4)認知度

 ①少なくとも管理職以上に予算数値や内容が浸透しているか
 ②認知の結果、予算実行のための全社一体での活動がなされているか


(5)権限と責任

 ①予算遵守の責任と権限が明確になっているか
 ②予算責任が管理者の評価と紐づいているか(暗黙でも)


(6)作成と運用

 ①予算を管轄する専任担当又は部署が存在するか
 ②毎月予算と実績の分析を行っているか


  これらは、一般的にPEファンドが最終的に予算編成の際に求めてくるものです。また、上場企業においては買収先の重要度等によって求めるレベルは異なってきます。どちらにしろ、未上場企業で上記全てに対応している企業は存在しないと思われますので、新任CFOとしては現状を早期に把握し、新株主の意向を満たした予算をどのように編成するかの検討に入る必要があります。

  とはいえ、前段で申し上げたように未上場企業に予算は「無くて当たり前」であるため、3.での現状予算の確認プロセスより前の工程であるPMIスケジュール構築段階で、あらかじめ予算編成に必要な時間とリソースを確保、想定しておくことが肝要になります。

  余談ですが・・・

[ 続きをご覧いただくには、下記よりログインして下さい ]


株式会社エスネットワークス


■筆者略歴
熊谷伸吾(くまがい・しんご)
東京大学卒業後、株式会社エスネットワークスに入社。2017年より在シンガポール。シンガポールをハブとして、国内外のPMI(合併・買収後統合実務)、管理機能BPR(ビジネスプロセスの設計/改善)を主に実行。過去に税務(税理士資格は過去に返上)、人事労務、IPO業務の責任者も経験。会計財務だけでなく、幅広い分野でクライアントにアドバイスを実施。IFRS、デューデリジェンス、Valuation等の経験も豊富。日本公認会計士。


[関連記事] 【エスネットワークス】 M&A後に必要な現場力を常駐支援で提供して戦略実行を実現する(マール 2015年12月号)

 

 

続きをご覧いただくにはログインして下さい

この記事は、無料会員も含め、全コースでお読みいただけます。

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング