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[【事業承継】中堅中小企業の事業承継M&A ~会計税務の実務上の頻出論点~(M&Aキャピタルパートナーズ)]

(2019/09/24)

【第4回】 スキーム検討時における非事業用資産の切り離し、事業用資産の買い取りについての実務上のポイント

桜井 博一(M&Aキャピタルパートナーズ 企業情報第二部 公認会計士・税理士)
はじめに 

 第3回では株式の事前の取りまとめ時における税務上のポイント及び非上場株式の時価の考え方について解説しました。

 今回は、M&Aの終盤におけるスキーム検討時において、一定程度の頻度で登場する、本業とは関連のない非事業用資産を切り離す場合や、逆にオーナー個人が保有している事業用資産を対象会社が買い取る場合の論点について、実務上のポイントに絞って解説します。

非事業用資産の切り離しが必要なケースとは

 中堅・中小企業では、本業に関連のない収益用不動産や、オーナー個人利用の乗用車を対象会社が所有していたり、逆に事業に必要な本社土地や社宅等の事業用資産をオーナー個人が保有し、会社が賃借していたりするケース等が多々あります。この際、株式譲渡実行と同時に、これらの資産を切り離し、逆に対象会社がオーナー個人から購入する必要性が生じることがあり、株式の譲渡対価と合わせて、当該スキームを決定する必要があります。

 切り離し方法は対象会社と売手との間で「売買」を行うことが一般的ですが、状況に応じた複数の方法があり、それぞれの方法により、税金の有無や有利な利用局面が異なり、資産の評価額によっては株式の譲渡対価や最終的な売手の手取り額にも影響が出る可能性があります。

切り離し方法の種類 

 非事業用資産の切り離し方法には一般的には下記の4つが実務上行われることがあります。

1.売買
2.役員退職金による現物支給
3.分割型分割
4.現物分配(ただし、株主が法人の場合)

 上記の方法のそれぞれにメリット・デメリットがあります。税金の有無や有利な利用局面、手続きの煩雑性等を鑑み、どの方法によることが両者にとってメリットが大きいか判断することが大切です。なお、それぞれのメリットやデメリットについて、下記の表にまとめました。
 
 例えば、消費税や印紙税の有無の違いにより、役員退職金による現物支給の方が一見有利に見えるケースでも、そもそも現物支給額が役員退職金の税務上の損金算入が認められる範囲内か、また、退職所得にかかる所得税が高額になり、手取り額に影響がないか、といった点を検討する必要があります。

 また、切り離す資産の数が多い場合や、簿価と時価に乖離があり譲渡損益が実現すると税務上不都合な資産(例えば償却済みの太陽光設備等)を保有している場合は、分割型分割を選択する方が経済的なメリットが取れるケースもあります。

 上記のメリット・デメリットを総合的に判断し、どの切り離し方法が良いか決定する必要がありますが、経済的な側面だけではなく、かかる手続きや案件スケジュールへの影響等も勘案することが望ましいといえます。

切り離し時における時価の決め方について

 上記の切り離し方法を検討するにあたっては、切り離す際の金額を決定する必要があり、当該金額は適正な「時価」で行うことが原則となります。ただし、各資産によって、適正な時価に対する考え方は異なり、上場有価証券のような市場がある資産を除き、客観的かつ正確な時価を算定することは一般的には困難です。そこで実務上は、各資産について、以下のように算定した金額を時価とみなすことが一般的となります。
 

 土地や建物は、不動産鑑定評価で算定された金額を時価とすることが最も客観的といえます。一方で、不動産鑑定評価を算出するには、不動産鑑定士への一定の報酬の支払いと算定までに時間がかかるというデメリットがあるため、時価を精緻に出さなければならない特別な理由(土地や建物の割合がディール金額に比して重要な割合を占めるケースなど)でない限り、不動産鑑定評価を入れるケースは実務上、少数派といえます。そのため、土地であれば相続税路線価や固定資産税評価を一定のルールで割り戻した金額や、建物であれば、適正な減価償却が行われているという前提のもと、簿価を時価とみなすことが多々あります。

 収益用不動産は、金額が小さい場合は、上記の通り、土地と建物を別々に評価することも実務上ありますが、実際に市場で売買されている時価と大きく乖離する可能性があるため、不動産鑑定評価のほか、近隣売買事例や収益還元価額が用いられることもあります。

 保険契約は、対象会社から売手に名義変更を行う際の解約返戻金を時価とみなすケースが一般的になります。

 車両は、オーナー個人が利用する乗用車を法人が所有しているというケースが中堅・中小企業にはよく見られ、中古車買取り業者の見積もり金額を時価とするケースが一般的です。一方、建物と同じく、適正な減価償却後の簿価を簡便的に時価とすることも実務上ありますが、ベンツやアウディといった高級車は、簿価と時価が大きく乖離していることがありますので、仮に売買金額を簿価とする場合は、後述する税務リスクに留意が必要です。

時価と異なる金額で売買した場合の税務リスクについて
 
 前述の通り、非事業用資産の切り離しは実務上、適正な時価による「売買」で行われることが一般的になりますが、時価と異なる金額で売買した場合等には一定の税務リスクが生じます。この場合、対象会社が売手に時価よりも低い金額で譲渡した場合と高い金額で譲渡した場合で税務リスクの取り扱いが異なるため、留意が必要です。

1.低額譲渡の場合

 例えば、対象会社が売手に簿価100、時価300の資産を、100で低額譲渡した場合、簿価と同額で譲渡しているため、対象会社の会計上、譲渡損益は生じません。

 一方、税務上は時価の300で譲渡したとみなされ、時価と簿価の差額200は譲渡益が計上される一方、売買金額100と時価300との差額200は実質的に対象会社から売手への経済的利益の供与であり、売手が役員であれば役員賞与、役員でなければ寄付金となり、同金額は損金不算入となる可能性があるため、譲渡益課税漏れの税務リスクが生じます(役員賞与の場合、源泉徴収漏れのリスクも発生します)。

 ※本稿では、売手が一般従業員(特殊関係使用人含む)に該当するケースについての記載は省略しております(以下、同様)。

 また、対象会社が役員に対し、時価の概ね1/2未満で譲渡した場合、消費税法上も時価で譲渡したとみなされます。時価に対する消費税を役員から受け取っていない場合、消費税の課税漏れのリスクが生じます。

 売手としても売買金額と時価の差額は所得税の対象となり、役員であれば給与所得、役員でなければ一時所得として所得税の対象となり、適切な申告を行っていない場合は税務リスクが生じます。

 ※なお、経済的利益の供与部分を役員退職金として支給する場合は、上記の税務リスクが生じない可能性もあります。

2.高額譲渡の場合

 例えば、対象会社が売手に簿価300、時価100の資産を、300で高額譲渡した場合、簿価と同額で譲渡しているため、対象会社の会計上、譲渡損益は生じません。

 また、税務上は時価の100で譲渡したとみなされるため、時価と簿価の差額200が譲渡損に計上される一方、売買金額100と時価300との差額200は実質的に売手から対象会社への経済的利益の供与であり、対象会社に受贈益が発生し、結果的に会計上の損益と一致(譲渡損▲200+受贈益200=損益0)し、譲渡時に特段の税務リスクは生じません。

 売手は200を対象会社へ寄付をしたとみなされますが、所得税を計算する上で、損金に計上することもできないため、単純に損をしたことになります。

 さらに、対象会社が売手へ高額譲渡し、株主の株式価値が増加する場合、高額譲渡した売手以外に株主がいるケースでは、株主間で贈与税の課税リスクが発生する可能性に留意が必要です。
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