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[【事業承継】中堅中小企業の事業承継M&A ~会計税務の実務上の頻出論点~(M&Aキャピタルパートナーズ)]

(2020/01/15)

【第8回】事業承継税制とM&Aによる承継手段の比較と実務上のポイントについて

桜井 博一(M&Aキャピタルパートナーズ 企業情報第二部 公認会計士・税理士)
はじめに 

 平成30年度の税制改正で事業承継税制※を利用した株式の親族承継が活用しやすくなったことは、M&Aの実務に携わる方であれば周知の事実かと思います。そのような中、最近では「事業承継税制を適用した後にM&A(株式の売却)を行うとどうなるのか?」といった基本的な質問から、「事業承継税制を利用した親族承継とM&Aによる第三者への承継はどちらの方法が有利か?」といった、よりM&Aの実務に絡んだ事業承継税制に関する質問が増加傾向にあります。

※事業承継税制・・非上場株式を相続または贈与により取得した場合に、要件を満たすと、相続税や贈与税の納税猶予や納税免除の措置を受けることができる制度

 そこで、本稿では、事業承継税制の基本的な内容をM&Aの実務に絡んだ論点にスポットを当てて解説します。

事業承継税制(後継者への承継)とM&A(第三者への承継)の関係

  第1回の記事にて、事業承継の選択肢には4つあることについてお伝えしましたが、その手段として、「M&Aによる第三者への承継」と並んで有力な手段として、「後継者への承継」があります。


 後継者が既に決まっている会社においては、高額となっている株式も事業承継税制を活用することにより、相続税や贈与税の納税を猶予することができ、要件さえ満たせば、先代経営者から後継者へ、実質無税で株式を移せる可能性が高くなります。

 事業承継税制は以前から制度としてはあったものの、これまでは使い勝手が悪く、利用率も低かったですが、平成30年度の税制改正により、適用条件が大幅に緩和されたことに伴い、今後は多くの中堅中小企業で同制度の適用の拡大が見込まれると言われています。

 一方、近年ではオーナーのご子息などの後継者候補が社内にいても、親族承継ではなく、あえてM&Aによる第三者への承継を選択する中堅中小企業が増加傾向にあるといえます。

 上記の図表にある通り、親族承継では後継者に意思や能力があることを確認する必要性があったり、業界環境のリスクを全て後継者が引き継がなければならなかったりと、一定のデメリットも存在します。従いまして、様々な観点で承継方法を比較検討することが重要であり、結果的にM&Aのメリットが親族承継のメリットを上回ると判断するオーナー経営者が増えていることが背景にあると推察します。

 後述しますが、事業承継税制にはメリットだけでなく、いくつかのデメリットも存在するため、事業承継を検討する上では、単に後継者が社内で既に決まっているといった理由や、税負担無く株式を後継者に譲渡できる、というメリットだけに着目し、事業承継税制を選択するのは早計であり、同制度を適用した場合のメリット及びデメリットをしっかりと整理することが重要といえます。

事業承継税制の基本的な理解について

  事業承継税制は平成30年度の税制改正で、従来からあった一般措置に加え、要件の緩和を目的とした特別措置として創設されたものです。主な内容は下記の表の通りです。



 事業承継税制の詳細な説明や細かな適用要件についての解説は本稿の趣旨とは異なりますので割愛しますが、特例措置の創設により、対象株数の適用拡大や、猶予割合や雇用の確保要件が緩和されました。それに伴い、非常に使い勝手が良くなり、この点で後継者への承継が行い易くなったといえます。

 特に、後継者は納税資金をすぐに準備する必要がなくなり、また、先代経営者も無理な株価圧縮を行う必要がなくなった点は、実務上、非常に大きなメリットといえます。

事業承継税制のデメリット

 事業承継税制が利用しやすくなった一方で、いくつかのデメリットも存在します。


 上記の通り、適用要件を満たすための条件は緩和されたとはいえ、後継者が先代経営者から株式を承継した後にM&A(第三者への売却)を行なった場合の影響等が、大きなリスクとして挙げられます。

事業承継税制適用後にM&A(株式を第三者へ譲渡)を行った場合の取り扱い

 事業承継税制は、あくまで納税を「猶予」しているものであるため、先代経営者が無くなるなど、それが「免除」される要件を満たすまでに猶予の取り消し事由に該当した場合は、先述の通り、猶予している相続税また贈与税、そして猶予していた期間の利子税※を納税する義務が発生します。

 ※相続税もしくは贈与税の申告期限後5年以内かどうかで利子税の取り扱いは異なる

 したがって、事業承継税制を適用した後にM&Aを実行すれば、相続税や贈与税を低く抑えることができるのではないか、と勘違いをしているオーナー経営者も一定数いるようですが、「猶予」している納税義務が復活するだけであり、それによって納税額を減少させることは原則的にできません。

 なお、事業承継税制を適用した後に、環境や事業内容の変化に伴い、後継者がM&Aを検討するような可能性は、どの企業にもあり得ることでしょう。

 その際、贈与税と相続税は金額に対する税率や基礎控除額が異なるため、一般的には贈与税の方が納税額は高額となります。そのため、M&Aを行ったことなどにより、納税猶予が取り消され、贈与税を納税する義務が発生した際に、素直に相続した方が、結果的に納税額も安く済んだ、といったことにならないよう、納税猶予が取り消された場合の対応も想定した上で、承継方法を決定することが重要でしょう。
 
おわりに
 
 事業承継税制を適用した「後継者への承継」とM&Aによる「第三者への承継」、結果的に「どちらが有利か?」という質問に対しては、それぞれの企業によって状況が異なり、全く性質の異なる方法であるため、税務上どちらが有利か不利かは一概にはいえません。

 企業ごとに、両者のメリットとデメリットをしっかりと比較検討した上で、承継方法についての結論を出すことが重要だと考えます。

 M&Aの実務担当者であれば、先述したM&Aを行った場合とよく対比される事業承継税制の基本的な論点は是非押さえておきたいところです。

 次回はM&Aの際の仕訳と買手会社が支払ったアドバイザリー費用等の会計上の取り扱いについて解説を予定しています。

■ M&Aキャピタルパートナーズ

■筆者経歴
桜井 博一(さくらい・ひろかず)
大学在学中に公認会計士試験に合格後、卒業後は三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。中堅中小企業向けの融資業務や再生支援業務等を経て、株式会社KPMG FASにて中堅・上場企業向けの財務・事業デューデリジェンス業務を中心としたM&Aアドバイザリー業務に従事した後、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社に参画。物流業界を中心に、飲食業界、アミューズメント業界等、幅広い中堅中小企業のM&A仲介業務に従事している。 



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