第1回では事業再生プロセスの全体感を、
第2回では事業再生計画の策定プロセスを実際のバンクミーティングの風景を織り交ぜながら解説した。
事業再生のプロセスで注目されるのは、いかにして
ハンズオン支援を行い会社が再生していったか、という経営改革のストーリーかもしれない。これについては多くのターンアラウンドに関する書籍や経営改革に関するビジネス書で解説されている。だが実は、事業再生が成功するか否かは入り口の「再生スキーム」(Day1を綺麗なバランスシートでスタートする)で7割がた決まる、というのが筆者の感覚である。
今回はその「再生スキーム」の部分を解説する。
1. 債権者の利害調整を実施
① 法的整理と私的整理
債務返済能力のなくなった企業(再生企業)は、社長でも株主でもなく、実質的に債権者が意思決定権を持っている。そこで、多数存在する債権者の利害調整をどのように行うか、その手法は大きく
法的整理と
私的整理の二つに分かれる(もっとも、その中間的な性格を持つ準則型私的整理(公的な第三者機関が関与する私的整理)もあるが、これは基本的には私的整理の一形態である)。
法的整理、私的整理のメリット、デメリットをごく簡単に整理する。
| 法的整理 | 私的整理 |
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メリット | - 裁判所関与の元、公平性が担保される
- 透明性が高い
- 多数決による利害調整が可能
| - 柔軟なプロセス推進が可能
- 債務免除対象を金融機関に限定することで、風評被害を回避
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デメリット | - 手続が公表されること、金融機関以外の商事取引上の債権者に対しても債務免除を求める、風評被害等により事業価値を毀損するおそれがある
- 手続に時間、手間、費用を要する
| - 強制力が無いため、対象債権者全員の合意が必要
- プロセスの透明性が低い
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いずれの手続きで進めるかは、対象企業の規模、業種、調整すべき債権者の数、など案件によるが、一般的に
PEファンドによる再生投資では、①迅速かつ柔軟性があり、②風評被害による事業価値の毀損を避けることのでき、さらに③利害関係者に及ぼす損失の範囲を限定できる、といった理由から、私的整理の可能性を最初に探る事が多い。但し、プロセスを進めるうちに「債権者の全員同意を取るのが難しい」等の理由から法的整理への移行させるケースもある。...
■筆者履歴長瀬 裕介(ながせ・ゆうすけ)あずさ監査法人に7年間勤務。製造業、商社、情報通信業の企業を中心とする監査、IPO支援業務等に従事。成長過程にある企業の経理全般、管理会計の整備等を経験。 2013年にニューホライズンキャピタルに入社し、投資実行、投資後のハンズオン支援からEXITに至る一連の業務を担当。特に再生案件における金融調整、リストラクチャリングから投資実行後の経営企画・管理部門の強化を担当。丸茂工業案件では取締役として投資直後の原価計算制度の構築からEXITまで一貫して関与し、CFOを補佐・監督した。その他、万葉軒の監査役、たち吉の取締役を歴任。横浜国立大学経済学部卒。