[M&A戦略と会計・税務・財務]

2022年6月号 332号

(2022/05/13)

第177回 国際経済、国際税務の観点から見るウクライナ危機

荒井 優美子(PwC税理士法人 タックス・ディレクター)
  • A,B,EXコース
1. ウクライナ侵攻後に公表された世界経済見通し

 ロシアによるウクライナ侵攻から2か月を経過したが、ロシア軍はキーウから撤退して東部・南部に戦力を集中させ、ウクライナ侵攻は新たな重要局面に入ったとの報道がされている。さらに、ロシア中央軍管区の司令官はウクライナ隣国のモルドバへの介入も表明し、戦域の拡大懸念が高まっている。

 ウクライナ侵攻の世界経済への影響については、OECD(経済協力開発機構)が2022年3月17日に中間経済見通しで、世界のGDP成長率を侵攻前の予測よりも1%ポイント以上低下させ、世界の消費者価格を2.5%ポイント以上押し上げることを示唆していた(注1)。
【図表1 G世界経済見通し 2022年4月】
【図表1 G世界経済見通し 2022年4月】

 IMF(国際通貨基金)の最新の経済見通し(4月19日公表)では、世界経済成長率は2021年の推計6.1%から減速して、2022年と2023年は3.6%となる見込みであり(図表1参照)、それぞれ、2022年1月の予測から0.8%ポイントと0.2%ポイント下方改定されたことを報告している。

 ただし、「予測は今般の紛争がウクライナ国外へと拡大しない、ロシアへの制裁拡大がエネルギー部門を対象にしない、2022年中にコロナ禍の医療や経済への影響が徐々に減少する、という前提に基づいている」と述べられている通り、最近の追加の経済措置や、ロシアによるポーランド、ブルガリアへのガス供給の停止等によっては、ロシアへのエネルギー依存の高い欧州の2022年の経済予測がさらに下振れすることが考えられる。EUの中でも、ロシアへのエネルギー依存度が高いドイツでは、4月22日、2022年の経済成長率見通しを従来予想の3.6%から2.2%へ引き下げることを発表した(ロイター通信)。

 経済成長の落ち込みは、先進国と新興市場国・発展途上国のギャップはそれほど大きなものではない(2021年実績と2022年予測)が、2022年の物価上昇率は、先進国で5.7%、新興市場国および発展途上国で8.7%と予測され(それぞれ1月時点の見通しよりも1.8%ポイントと2.8%ポイントの上方改定)、コロナ禍で拡大する発展途上国の貧困化に拍車がかかると予想される。

2. 旧ソ連邦諸国の経済

 旧ソ連邦は、現在のロシア連邦(通称はロシア)とソ連条約を締結した共和国によって構成された連邦共和国であったが、1991年の旧ソ連邦の崩壊後は、

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