[寄稿]

2020年8月号 310号

(2020/07/15)

日系企業が取り組むべき「事業再編型M&A」

鳥居 弘也(マーサージャパン グローバルM&Aチーム プリンシパル)
  • A,B,EXコース
■日系企業による事業再編型M&Aの増大

 M&Aには大きな潮流があり、今は潮目が変わる時かもしれない。2018年まで日系企業によるM&Aのターゲットは海外が主体であったが、2017年から国内M&Aが増加し2019年には金額ベースの構成比率で35%を越えることとなった。(レコフM&Aデータベースより)

 マーサージャパンのM&A部門への依頼も、近年は国内の事業ポートフォリオを大きく変革するための、いわば「事業再編型」とでもいうべきM&Aが増加する傾向にあった。複数の外部調査機関も、事業再編のための売却・買収のケースが増えている事を報告するものが多く、この傾向を裏付けていたといえる。


■日系企業の喫緊の課題

 日本経済の大きな柱の一つである製造業において、ビジネスモデルが世界の経済・社会ニーズの変化に追いついておらず、乖離が拡大しているという認識はかなり前から存在した。会社のあり方、事業のあり方を根本的に見直すような転換に迫られていると、経営者自らが強く認識している業界が多数みられる。

 例えば、自動車業界は典型的だが、内燃機関技術という100年間続いたコア技術がノンコア化しつつあり、自動車というモノを売る時代からモビリティサービスを提供する時代へ移行しなければならないとの認識が強い。医薬品業界では、免疫療法や遺伝子治療、ワクチン分野に技術革新があり、日本の研究開発リソースとのギャップが拡大し、新しい技術シーズの獲得とMRのあり方を含むビジネスモデルの転換が迫られている。電機も単なる製品を売るのではなく、IOTインフラを提供し、顧客の問題を解決するプラットフォーマーやコンテンツサービスプロバイダーへと転換をはかろうとしている。


■日系企業の変革のボトルネックは、人材の流動性の欠如

 事業ポートフォリオ転換には必ず人材ポートフォリオの転換をともなう。日系企業の社員は、「就社意識」がまだまだ根強く、人材の流動化に対しては強い抵抗感を示す。この点は十分なセベランス(離職手当・解雇手当)を支払えば、感情面では納得されやすい欧米の社員のメンタリティとは大きく異なる。(ただし欧州では労働法制としてセベランスを払っても一方的な解雇は困難な国もある)

 また、日本の労働法制や社会システムが保守的であることから、たとえ十分な処遇補償がなされても、人的資源の切り離しを行うのは、法的リスクや企業イメージの棄損にもつながりかねない。つまり、日系企業は社内的にも社外的にも、今求められているようなドラスティックな事業転換をはかるうえで不可欠な「抜本的な人材ポートフォリオの転換」が困難であり、自己変革能力が大きく劣る主な原因となっていると筆者は考える。


■日系企業の事業再編にはM&Aが最大の武器

 2018年までのM&Aを振り返ると、初期は国内企業同士の合併による規模拡大、2011年以降は海外市場へ直接進出するための海外事業買収による規模および商圏の拡大が目的であった。

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