[寄稿]

2022年4月号 330号

(2022/03/09)

「ドキュメント72時間」からの想像~コーポレート・ガバナンスと社外取締役を巡って

大森 泰人(金融・経済・人間研究者、元証券取引等監視委員会事務局長)
  • A,B,EXコース
 1カ所にTVカメラを置き、次々に訪れる人たちと会話する3日間を流すだけの静かなNHK番組が「ドキュメント72時間」である。「老後破産」とか「子供の貧困」とか「境界知能」とか、社会の課題を掘り下げる番組にも学びがあるが、この静かな番組の短い会話から視聴者は、訪れる人たちの人生に自ずと想像力を働かせざるを得ない。

 「それって金融やM&Aに関係あるの?」と問われると、直接は関係ないかもしれないが、最近の金融界からは、もうちょっと想像力を働かせれば違う展開があり得た風景を見せられている気もする。だから、しばしの間、読者は私の想像におつき合い頂きたい。


撮影現場からの想像

 「ドキュメント72時間」の典型的な撮影現場は、「牛肉100g200円の訳ありスーパー」や、「結構ボリューミーなのに一律290円の格安弁当店」や、「どのボトルも試飲一杯100円の酒屋」だったりする。生活保護受給者やホームレスを含む貧しい老人男性が訪れ、「肉を食って酒が飲めりゃ生きてる意味もあるってもんよ」とか、「パチンコ当てて今夜はお祝いだぜ」とか、「年金や労災なんてこれまで誰も教えてくれなかったよ」とか、「今年の冬はオレの故郷みたいに冷え込みきついね」とか、「家族?昔はいたけどな」とか語る。

 私の想像は、東北や北陸からの集団就職や冬の間の出稼ぎで環境劣悪な工事現場を転々とし、病気や怪我をしても満足な治療を受けられず、気持ちを紛らわそうとパチンコや競馬にハマり、故郷への仕送りもままならなくなって疎遠になる展開へと至る。歳を取れば身体が動かなくなって生活の糧を失い、家賃が払えなくなっても生活保護が嫌ならホームレスになるしかない。

 視聴感が似た老人女性版の撮影現場が駅前の駐輪場であり、朝5時のオープンに自転車を置きに訪れるのが清掃婦たちだ。「この歳であたしらができる仕事はお掃除しかないからね」、「結婚? 器量も頭も悪くてご縁がなかったよ」、「社員の出勤前に仕事を終えりゃ安くてウマい、コメダ珈琲の朝ごはんが楽しみでね」。さらに歳を取って身体が動かなくなれば、家賃が払えなくなってホームレスに加わり、公園の炊き出しに現われるかもしれないと想像する。

 やはり視聴感が似た外国人版の撮影現場が海外送金所であり、

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