[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2021年11月号 325号

(2021/10/11)

第199回 繊維業界~M&Aによって変貌を遂げてきた老舗の繊維会社(下)

澤田 英之(レコフ 企画管理部 リサーチ担当)
  • A,B,EXコース
4.東洋紡の動向

 図表1は、2021年9月号に含めた一覧であり、事業構造の転換に向けて積極的にM&Aを行ってきた老舗の繊維会社の例である。9月号で執筆した日本毛織、前号(10月号)で執筆した日清紡HDに続き、今回、東洋紡、及び、倉敷紡績の動向について執筆した。

(再掲図表1)各社の概要
企業名
(上場市場)
設立年売上高
(前期実績)
特色
日本毛織
(東証1部)
1896年
(明治29年)
1049億円祖業は羊毛紡績。事業は衣料繊維の他、産業機材、ショッピングセンターやスポーツ施設運営、Eコマースなど
日清紡HD
(東証1部)
1907年
(明治40年)
4571億円祖業は綿紡績。M&Aでエレクトロニクスが中核事業となり、自動車用ブレーキ摩擦材でも世界トップクラス
東洋紡
(東証1部)
1882年
(明治15年)
3374億円祖業は綿紡績。フィルム・機能樹脂、産業マテリアル、ヘルスケアなどへ事業領域を拡大
倉敷紡績
(東証1部)
1888年
(明治21年)
1222億円祖業は綿紡績。織布や高機能繊維製品、また、自動車内装材や機能フィルムといった化成品事業などを展開

(注1)東洋紡は1914年に大阪紡績と三重紡績との合併により設立されており、図表1では大阪紡績の設立年を含めた
(注2)各種資料より作成

(1)現在の事業構成と各事業の概要

 東洋紡は1914年、大阪紡績と三重紡績が合併し東洋紡績として設立された(2012年に東洋紡に社名を変更)。大阪紡績は1882年、また、三重紡績は1886年に発足しており、大阪紡績は日本で初めての民間会社組織による紡績会社である。

 図表9は同社の現在の事業別売上構成比である。

(図表9)事業別売上高(2021年3月期)
事業名事業概要売上高
(億円)
売上
構成比
フィルム・機能マテリアル包装用フィルム、工業用フィルム、工業用接着剤、光機能材料等の製造・販売1,52845.3%
生活・環境アクア膜、機能フィルター、スーパー繊維、不織布、機能衣料、アパレル製品、衣料テキスタイル、衣料ファイバー等の製造・販売1,09132.3%
モビリティエンジニアリングプラスチック、エアバッグ用基布等の製造・販売36610.8%
ライフサイエンス診断薬用酵素等のバイオ製品、医薬品、医用膜、医療機器等の製造・販売2718.0%
不動産不動産の賃貸・管理等401.2%
その他建物・機械等の設計・施工、情報処理サービス、物流サービス等782.3%
連結売上高3,374100.0%

(注)有価証券報告書より作成

 フィルム・機能マテリアル事業では、バリア性・防湿性が高く、食品の賞味期限を延長しながら風味を損なわない食品包装用フィルムや、液晶ディスプレイ用、セラミックコンデンサ用の工業用フィルムを製造。液晶ディスプレイ用の液晶偏光子保護フィルム「コスモシャインSRF」の世界シェアは35%、また、セラミックコンデンサ用離型フィルム「コスモピール」の世界シェアは25%という(文末※1参照)。

 生活・環境事業では、主に中東向けに販売している生活海水淡水化膜、また、リチウムイオンバッテリーセパレーター製造工程で溶剤処理に使用されるVOC(揮発性有機化合物)処理装置、そして、自動車・資材・フィルター用途の高機能不織布や衣料繊維などを製造している。

 モビリティ事業では、強度をもちつつ軽量化につながる自動車向けのエンジニアリングプラスチックや、エアバッグ用原紙と基布を製造している。エアバッグ用原紙と基布は世界の全エアバッグの4割に当たる量を生産しているという(文末※2参照)。

 ライフサイエンス事業では、ライフサイエンス研究用試薬や診断薬原料酵素といったバイオ関連製品、また、人工腎臓用中空糸膜などを提供している。

(2) 多角化を推進しつつM&Aによる経営資源の選択と集中を実施

 東洋紡による事業の多角化の歴史は第二次世界大戦前にまで遡り、

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