[【企業価値評価】企業価値評価とコーポレートファイナンス(早稲田大学大学院 西山茂教授)]

(2015/12/22)

【第2回】儲けはキャッシュフローがベース

 西山 茂(早稲田大学大学院(ビジネススクール)教授 公認会計士)
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 第1回では企業価値や株主価値の意味と評価方法について学んできました。その中で取り上げた理論的な企業価値の代表的な評価方法の1つであるDCF法では、将来企業が事業から生み出すキャッシュフローを評価のベースとしていました。またDCF法のベースとなっているファイナンスの理論においても、投資プロジェクトを評価する場合をはじめとして儲けのベースはキャッシュフローと考えています。今回は、このキャッシュフローについて学んでいきます。

1. なぜキャッシュフローで儲けを測定するのか

 投資家の立場から見た企業価値の評価方法の中心であるDCF法、またその前提となるファイナンスの考え方の中では、利益ではなくキャッシュフローを儲けのベースと考えています。これはなぜでしょうか?

 これは、利益という儲けのモノサシが生まれた理由を考えると分かりやすいと思います。そもそも企業はキャッシュを集めキャッシュを投資するなど、キャッシュをベースに活動しています。したがって、本来はキャッシュの動きを表すキャッシュフローが、裏付けがありまた企業の実態を表わすという意味で、最も適切な儲けのモノサシと考えられます。しかし企業が長く活動していく場合には、1年といった一定期間ごとの途中経過についての業績の報告も求められます。その場合、キャッシュフローは若干問題があります。例えば、何年かに一回大きな投資をするような企業の場合は、投資をした年には投資のための支払いによってキャッシュフローは大きなマイナスとなり、その後は投資に関係する支払いがなくなるのでキャッシュフローはプラスに回復し、その後また投資をすると大きなマイナスとなる、ということを繰り返すことになります。そうするとそのキャッシュフローの動きを見た人が、この企業は何年かに一度大きな問題が発生しキャッシュフローがマイナスになる危険な企業だ、と誤解をする可能性があります。実際は、たまたま数年に1回投資をしているだけで、毎年まったく同じような活動をしているにも関わらず・・・。そこで、誤解を招かないように、一定期間における途中経過を適切に表すような儲けのモノサシが必要になります。それが利益です。利益は、例えば設備投資の金額をその設備が使える期間にわたって割振っていく減価償却をはじめとして、いろいろな調整をして、一定期間にこのくらいのキャッシュフローにつながるような儲けを生み出したはずだ、というものをある仮定で集計したものです。別の言い方をすると、一定期間の企業の儲けを、できるだけ実態を反映した形で誤解を受けないように、いろいろと調整して集計したものです。したがって、利益は1年、半年、四半期といった一定期間の報告における儲けのモノサシとしてはより実態を表わしており、より適切なものと考えられます。しかし利益はキャッシュの裏付けはなく、キャッシュフローとはズレがあります。

 一方で、DCF法による企業価値評価・・・


■西山 茂(にしやま しげる)
早稲田大学政治経済学部卒業。米ペンシルバニア大学ウォートン校よりMBA取得。早稲田大学より博士号取得。監査法人ト-マツ等にて会計監査、株式公開コンサルティング、M&A支援、人材育成などの業務に従事。
2002 年から早稲田大学で教鞭をとり、2006年から現職。会計や財務といった数字をベースに理論と実務の両面から経営を考える授業やゼミを担当している。国内主要企業の監査役を歴任。会計・財務に関する著書多数。公認会計士。

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