[【法務】事業承継M&Aの法務(ソシアス総合法律事務所 高橋聖弁護士)]

(2018/03/01)

第5回 事業承継M&Aと法務デューディリジェンス

 高橋 聖(ソシアス総合法律事務所 パートナー 弁護士)
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はじめに

  一般に、M&Aにおいては、買手会社が、対象会社を買収するに先立って、対象会社に関するビジネス、会計、税務、法務等様々な面でのリスクを洗い出すため、一定の期間にわたって監査(デューディリジェンス)を実施するという実務が定着しています。

  会社を買収するためには多額の対価を支払うのが通常ですから、買手会社としては、デューディリジェンスを通じて、可能な限り対象会社の事業内容、管理体制等を事前に把握し、将来顕在化する可能性のあるリスクも加味した上で的確な企業価値を算定するとともに、これらのリスクに対して、M&A契約上での表明・保証、補償条項や是正義務を負わせることなどにより、リスクヘッジを行う必要があるわけです。

  本稿では、事業承継M&Aにおける対象会社の法務デューディリジェンスの際に留意すべき点について、総論的な観点と各法務分野個別の観点から解説します。

事業承継M&Aにおける法務デューディリジェンスの特徴

  事業承継M&Aの対象となるオーナー企業においては、株主や経営陣がオーナー一族やその関係者のみで構成され、外部者が経営に関与していないため、契約書、議事録、社内規則、マニュアル等の書面化が十分になされていないことがあります。そして、これらの書面が存在しないことによって、取引条件や権利関係が不明確である、人によって認識や理解が異なる、あるいは、情報が属人的となっているといった状況も頻繁に見られます。

  一般的に、法務デューディリジェンスは、関連書類が整備されていることを前提として、これら書類の精査を中心に実施されますが、事業承継M&Aにおいて上述のような対象会社の法務デューディリジェンスを行う場合には、整備された書面を精査するのみでは把握できない事項が多く存在する可能性があるため、相対的に、対象会社の経営陣や法務、総務、人事等の実務担当者に対するヒアリングの重要性が高くなります。

  また、事業承継M&Aの対象会社の中には、中小規模の会社も多く、これらの会社では、M&Aの対応に人的資源を割くことができない会社も少なくありません。このようなケースでは、例えば、「●●事業に関する取引先上位10社との契約書」といった買手会社からの書類の提出要請に対して、対応して整理された形で書類が提出されない、あるいは、買手会社からの書面での質問に対して、十分な社内調査が行われないまま回答がなされるなどといった事態も起こり得ます。

  したがって、買手会社としては…
 

 


■筆者略歴

 

高橋聖(たかはし・きよし)
1993年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。株式会社リクルート勤務を経て、1999年より弁護士としてTMI総合法律事務所にて、主にM&A、国際取引、一般企業法務等を取り扱う。2015年にソシアス総合法律事務所を開設し、現在は、事業承継案件を中心に、多数の非上場会社売却案件に売手・買手のリーガルアドバイザーとして関与している。
University of Virginia School of LawにてLL.M.(法学修士号)取得。第一東京弁護士会所属弁護士・米国ニューヨーク州弁護士。

 

 

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