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[特集・特別インタビュー]

2019年10月号 300号

(2019/09/17)

【冨山和彦氏が直言】アスクル問題で支配的株主の“一線を越えた”ヤフーが突き付けたもの

――これを機に少数株主の保護義務の制度化を

冨山 和彦(日本取締役協会副会長、株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO)
冨山 和彦(とやま・かずひこ)

冨山 和彦(とやま・かずひこ)

東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IGPIを設立。 パナソニック社外取締役、東京電力ホールディングス社外取締役。 経済同友会政策審議会委員長。財務省財政制度など審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員、金融庁スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員他。 近著に、『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』『選択と捨象』『決定版 これがガバナンス経営だ!』『AI経営で会社は甦る』『社長の条件』他。

【ヤフー・アスクル問題の経緯】
 アスクルは文房具大手プラスの事業部としてスタート、1997年に会社を設立。オフィス用品通販で急成長し、2004年東証一部に上場した。12年の一般消費者向け通販サイト「LOHACO(ロハコ)」の立ち上げに伴って、ヤフーと業務資本提携。その後、ヤフーが45.13%まで株式を買い増しして、国際会計基準IFRSの連結対象にした。
 その後、19年1月にヤフー側からLOHACO事業を譲渡するよう正式要請があったが、アスクル側は、この提案を社外取締役などにも諮ったうえで、今後成長が見込めるLOHACO事業の売却はアスクルの既存株主の利益につながらないとして正式に拒否。6月にヤフーの川邊健太郎社長がアスクルを訪問し、岩田彰一郎社長(当時)に退陣を要求し、8月の株主総会では岩田社長の再任に反対するとの意向を伝えたという。8月2日に開かれた株主総会では、ヤフーと11.6%を持つプラスが、岩田社長と独立社外取締役3人の再選に反対票を投じ、再任が否決された。


日本取締役協会が緊急意見発表

―― アスクルの株主総会を控えた2019年7月30日に、日本取締役協会(会長・宮内義彦オリックス・シニア・チェアマン)は「緊急意見 日本の上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方」*を発表しました。冨山さんは、CEOを考える委員会の委員長として親子上場のガバナンスの検討をすすめてこられました。今回の提言発表の経緯について教えてください。


 「この声明は、ヤフー、アスクルという個社のみの問題を対象にしたものではありません。いわゆる親子上場における支配的株主である親会社の問題については、会社法の改正の過程で長い間、議論が行われてきました。日本では、支配的株主は株主総会で自分の思い通りに議決ができる力を持っています。その力を対象企業の企業価値向上のためだけに使っていればいいのですが、親会社の利益のためにその権力を使ってしまうと、子会社を搾取するということになります。法的にはそれをやろうと思えばできるわけです。しかし、子会社も上場企業ですから一般少数株主がいるわけで、結果的には一般少数株主の利益が害されるということが起きてしまいます。そういう状況はまずい。少なくとも米国、イギリス、ドイツでは、判例法も含めて少数株主の利益を尊重しなさいということが上場子会社の経営者だけではなく、支配的株主である親会社に対しても義務が課せられています。日本でも支配的株主である親会社に対する義務を会社法に入れるべきであるという議論があったのです。そうした経緯があって、今回ヤフー、アスクル問題が起きたので緊急の意見発表となりました」


前近代性を象徴する最後の問題

―― なぜ、それが入れられなかったのですか。

 「日本は、反対派が特に経済界で優勢で、これを導入できなかったのです。日本の資本市場は親子上場や持ち合いが多く、そういう義務を課せられるとやりにくいという事情があったのだと思います。

 また、上場子会社を人事に使っていたということもあったでしょう。分かりやすく言うと、社長レースに負けた人を処遇するために上場子会社の社長に据えるということで納得してもらう。日本の人事システムは年功制ですから、優秀な人でも年次のめぐり合わせが悪いと社長になれないということが起きます。そうならないような処遇の仕方が日本型経営の秩序維持にとっては大事だという時代が長く続いたのでしょうね。

 実は、親子上場における支配的株主問題をめぐる議論は社外取締役導入問題ともよく似ています。独立取締役を導入すべしという問題については、会社の事情も知らない訳の分からない者がぽっと入ってきて、経営陣にものを言われるのは、いわゆる伝統的な日本的経営とは相いれないとして経済界はずっと反対してきたという歴史があります。

 ただ、12年12月の第2次安倍内閣のスタート以来、スチュアードシップ・コードの制定をはじめ、『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト(座長:伊藤邦雄 一橋大学大学院商学研究科教授)の『最終報告書(伊藤レポート)』の公表、そしてそれを受ける形でコーポレートガバナンス・コードが制定されるなど、急激にさまざまな統治改革が形式上は進んできました。

 コーポレートガバナンスの憲法に相当する根本規範は会社法です。わが国の会社法の機関設計に関する規定は、憲法の定めるところの国の統治機構における議院内閣制に近い仕組みであると考えていいと思います。

冨山 和彦氏
 つまり、統治原理的には資本制民主主義を基礎として、有権者に当たる株主は、原則年に1回の定時株主総会(≒総選挙)で議決権(≒選挙権)行使して、自らの代表者たる取締役(≒国会議員)を選任します。また、国家における国権の最高機関である国会に相当する取締役会は、その過半数の支持によって取締役の中から執行部門のトップである代表取締役(≒内閣総理大臣)を選任します。そして監査役は、取締役会や経営陣の行動の適法性を、業務執行停止権を梃子に監査・監督する裁判所に近い機能を持っているわけです。

 こうした基本構造は、我が国の会社法体系の古くからの仕組みで、わが国では資本制民主主義に基づく議院内閣制的な法体系を、“サラリーマン民主制”的に運用してきたと言えます。このように、ガバナンスのあり方については、議院内閣制をアナロジーとしながら、会社法を本来の姿で読むことで理解しやすくなると思います。

 このアナロジーからすると、例えば、国会の議長に相当する取締役会議長は、内閣総理大臣に相当する経営トップとは別の人物の方が自然ですし、総理大臣(≒経営者)から見て国会議員(≒取締役)や裁判官(≒監査役)が全員自分の部下ということもあり得ないということがわかるでしょう。前任の総理大臣(≒経営者)が次の総理を選ぶのも当然のことではないということも自明のことになります。

 一方で、『有権者』

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