[視点]

2019年7月号 297号

(2019/06/17)

M&Aの現場における実務プラクティスの重要性

~「公正なM&Aの在り方に関する指針」に思う~

勝間田 学(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー 弁護士・NY州弁護士)
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 2019年5月14日、経済産業省は、「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-(案)」(以下「公正なM&A指針案」という。)を公表し、本稿執筆時点では、パブリックコメントに付され、意見募集が行われている。
 その内容の詳細については、別稿に譲りたいが、本稿においては、公正なM&A指針案の検討経緯や内容を検討した雑感として、M&Aの現場における実務プラクティスの重要性について述べたい。


1 現場の実務プラクティスが将来の規範を創る

 公正なM&A指針案は、2007年9月4日に策定された「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下「MBO指針」という。)をベースに、その後10年以上の間に蓄積された「実務対応上の知恵」や諸々の法制度等の改正、判例等を踏まえ、全面改訂したものである。
 ここでまず注目したいのは、「実務対応上の知恵」を踏まえているという点である。
 少し振り返りたいが、MBO指針が策定された2007年9月4日当時、MBOの在り方に関する議論や裁判所の考え方が現在ほど深まっていなかった。そのような中で、M&Aの現場における担当者や実務家が、決して多くはない情報を手掛かりに、苦悶しながら個々の案件に応じた実務対応を1つ1つ模索していったといっても過言ではない状況であった。
 このようにして世に送り出された実務対応が、やがて多くの案件で採用され、さらには裁判例の中で肯定的に評価され、そして現在「実務対応上の知恵」と評価されるまでに至ったのである。
 公正なM&A指針案は、MBO指針より踏み込んだ形で、また、詳細に、「実務対応上の知恵」を提示しており、M&A実務において大いに参考になる。例えば、独立委員会のメンバー構成や属性などについても詳細に言及しているし、その他MBO指針では言及されていない論点についての言及も随所に見られる。
 もっとも、公正なM&A指針案で言及されている諸論点や措置の中には、実務上の具体的な対応について更なる検討を要するものの少なからずある。例えば、公正なM&A指針案は、

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