第一生命ホールディングス(HD)は2024年5月22日、福利厚生サービスを手掛けるベネフィット・ワンを完全子会社化するための手続きを完了した。買収総額は約2920億円となる。
ベネフィット・ワンを巡って、医療情報サイトを運営するエムスリーと第一生命HDの買収合戦が繰り広げられたのは記憶に新しい。エムスリーは2023年11月にベネフィット・ワン株式の過半数を1株1600円で買い取る提案を行ったが、エムスリー案に対して第一生命HDがわずか3週間後に対抗
TOBを提案。TOB価格を1株2173円に引き上げ株主の賛同を得たことで、エムスリーの買収提案は不成立となり、第一生命HDによるTOBが成立した。
今回のベネフィット・ワン買収は、伝統的な名門大企業がすでに進行中のTOBに対抗提案をする日本では異例のケースとして大きな注目を浴びた。
第一生命HDが対抗的手段も辞さなかった背景には、国内生保市場が人口減少によって先細りする中での強い危機感がある。第一生命HDは3月29日に発表した新中期経営計画で、2026年度末までに2023年度始時点の時価総額(3兆円)を倍増させる目標を掲げており、今回のベネフィット・ワン買収もそのための重要な施策として位置づけられている。新たな中計では、グループ修正利益で4000億円、
ROEは10%程度を目指し、将来的には安定的に10%を超える水準に引き上げる方針だ(2024年3月期のROEは約8%)。
新中計では、国内ビジネスで①従来の保険業から「保険サービス業」への変革、②ベネフィット・ワンをハブとした非保険領域の拡大、エコシステム構築、③デジタル等を中心とした「新規領域での探索」などを注力ポイントとして掲げている。
こうした経営戦略を進めていくなかで、ベネフィット・ワンは、第一生命HDにとって重要な事業体となる。ベネフィット・ワンの福利厚生サービスは、健康増進や娯楽など多様なサービスを提供するプラットフォームで、約1万6000の企業・団体、約976万人の顧客を獲得している。第一生命HDは、ベネフィット・ワンと共同で開発した新しい保険商品をこのプラットフォーム上で提供することなども検討している。
今回のTOBのポイントは、第一生命HDが通常のM&Aでは考えられない短い期間で社内意思決定をまとめ上げ、対抗提案に落とし込み、提案を成功させた点にある。対抗TOB進行のプロセス、TOB成功に至るまでの状況等について、担当幹部に話を聞いた。
戦略を描いたチームがそのまま案件実行へ
―― ベネフィット・ワンへの対抗TOBが成功しました。最初に、ベネフィット・ワン対抗TOB提案時に組織体制をどう作ったかについて教えて下さい。