[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2022年1月号 327号

(2021/12/09)

第201回 造船業界 ~海洋国家日本と業界の存亡をかけてオールジャパンの取り組みが不可欠

田城 謙一(レコフデータ 編集委員)
  • A,B,EXコース
日本にとっての造船業の重要性

 四方を海に囲まれ、資源をはじめとした多くの物資を輸入に依存する我が国日本では、輸出入のうち、航空輸送はわずか0.4%ほどで、ほぼ100%が海上輸送となっており、日本経済にとって、海上輸送は不可欠な存在にある。また、日本の海運会社が保有する船の船腹量は世界の11.5%を占め、ギリシャに次ぐ第2位の輸送能力を有している。この日本の海運会社から造船会社へ発注される割合をみると、その4分の3は国内であり、海上輸送にとって国内の造船業は非常に重要な存在と言える。

 また、日本は船を製造する造船業に加え、エンジン、ボイラー、プロペラといった船に搭載する機器を製造する舶用工業、さらには貨物等を輸送する海運業のほか、港湾運送、法務、金融、保険など様々な産業が直接・間接に関係する産業群を形成しており、一つのぶどうの房(クラスター)に多くのぶどうの粒がついている状態をイメージして「海事クラスター」と呼ばれている。この海事クラスターに従事する従業員は約34万人におよび、造船業界だけで約8万人、舶用工業で5万人弱が雇用されている。造船所は瀬戸内海や北部九州を中心に集積するが、資機材の9割超を国内で調達しており、これら地域の経済・雇用を支える重要な産業となっている。

 さらに、我が国の安全保障の観点から海上警備を支える艦艇・巡視船を全て国内の造船会社が建造・修繕しており、造船業は安全保障においても欠くことのできない産業と言える。


崖っぷちに追い込まれる造船業界

 新造船建造量において、日本は1980年代までは世界シェアの半分を占めていたが、90年代から韓国、2000年代からは中国が価格競争力を武器に受注を伸ばす一方で、日本は受注が伸び悩み、結果的に2010年以降は20%程度のシェアとなっている(図表1)。

 また、08年のリーマンショック後に、世界の新造船の受注が激減したことから、リーマンショック前の受注船がほぼ竣工した11年の1億185万総トンをピークに世界の新造船建造量は4割程度減少している。そして、この減少分が世界規模での過剰な生産能力として造船業界に重くのしかかっている。

(図表1)世界の新造船竣工量の推移

 船舶の受注から引き渡しまで1.5~2年程度を要する造船業界では、当面の経営状況をみる指標として、新造船受注量から竣工した分を差し引いた「手持ち工事量」という指標が用いられる。これは一般的には「受注残高」に当たるが、現状の手持ち工事量が過去の建造実績の何年分に相当するかによって現場の操業の安定度を測ることができる。

 16年~20年までの直近5年間において、日本の新造船受注量は、公的支援を受ける中国や韓国と比べて4割程度の受注量にとどまっている。このため、19年には日本の手持ち工事量は危険水域といわれる2年を下回る水準まで低下した。⽇本船舶輸出組合の計算によると、20年8月末時点ではわずか1.05年分の工事量しかないというところまで追い込まれた。


M&Aによる集約化と撤退の動き

 20年の世界の造船企業グループの建造量をみると、

この記事は、Aコース会員、Bコース会員、EXコース会員限定です

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング